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傲慢王子のあるまじき溺愛事情

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  • 作家田崎くるみ
  • イラスト中田恵
  • 販売日2017/03/31
  • 販売価格500円

もう二度と会うことはないと思っていた…だからあの日、あんな思い切った『お願い』をすることができたのに――!「俺の可愛い後輩だから、手出さないでね」なんて笑顔でサラリと、とんでもないことを言い出した綾乃の勤務先の先輩……傲慢王子、こと郡司瑞貴。自分に自信がない綾乃は、あの日の思い出なんてなかったかのように優しく接してくる郡司に、戸惑いながらも過去に封印した恋心が蘇らないよう必死に気持ちを押し殺す日々を送る……。そんな綾乃の心を知ってか知らずか、郡司のあるまじき溺愛はエスカレートしていき……?

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プロローグ
「抱いてください」
 ふたりっきりの部室内で、私はとんでもないことをお願いしてしまった。今日、卒業してしまったずっと大好きだった彼に──。
 当然目の前の彼は、何度も目を瞬(しばたた)かせて私を凝視してくる。
 けれど冗談でこんな思い切ったことを言ったわけではない。本心だから。もう学校に来ても会うことができない。告白したって、当然振られるだけ。
 だったら最後に思い出が欲しかった。一生忘れられない思い出が。
 切実な思いを抱えたまま見つめていると、我に返ったのか彼はハッとし一瞬顔をしかめた。
 けれどすぐに私を見据え妖艶(ようえん)な笑みを浮かべた。
「それ、本気?」
 一歩、また一歩と私との距離を縮めてくるたびに心臓が飛び跳ねる。
 後悔はしない。だってそれほど好きだから。
「……はい」
 固い意思を伝えるように、彼の切れ長の瞳を見つめ返す。
 私の目の前で立ち止まると、彼の大きな手がそっと私の頬に触れた。たったそれだけのことで、身体が強張ってしまう。
 そんな私の反応を楽しむように彼の長い指がゆっくりと下ってきて、親指が下唇に触れた。
「なに? お前……俺のこと好きだったの?」
 私の真意を探るような鋭い眼差しに怯みそうになる。
 本能まま答えるならもちろんイエス。……でも困るでしょ? 私に好きって言われても。私はただの妹みたいな存在としか思われていないはずだから。
 唇をギュッと噛みしめ、答える代わりに自分から彼の胸の中に飛び込み、再度同じ言葉を繰り返した。「抱いてください」と。
 私のことを好きになってくれなくてもいい。最後に一度だけ最高の思い出をください。
 すがる思いで抱き着く私の身体を、彼は優しく時には強引に抱いた。一生忘れられないほど、深く残る想いを刻み込むように──。
望んでいなかった、傲慢王子との再会
 人には誰にだって忘れられない、忘れることができないほど、深く胸に残る恋をしたことがあるはず。
 たった二十二年しか生きていない私にだってある。……この先どんなに長生きをして、たくさん恋愛をして結婚したとしても、間違いなく思い出してしまうのは彼に恋をしたこと。
 五年経った今も忘れられず、新しい恋に踏み出せないほど、深く心に残って離れてくれない。
 それほど好きで大好きで、最後にバカなお願いをしてしまうほど、どうしようもなく好きだったんだ。
「綾乃(あやの)、こっち!」
 爽(さわ)やかな春の風が心地よく髪を揺らす五月の朝。改札口を抜けると私の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
「おはよう、朋美(ともみ)」
 軽い足取りで彼女の元へ向かっていく私、河西(かさい)綾乃。春に大学を卒業したばかりの二十二歳。
「いよいよ今日から本社勤務かと思うと、さすがに緊張しちゃうね」
 そして胸元に手を当て、大きく深呼吸しているのが北川(きたがわ)朋美。会社説明会で知り合い意気投合した同期だ。
 大学を卒業後、入社したのは大手の菓子メーカー。四月一日。入社式後に約一ヵ月間、みっちりと社内研修が行われた。
 そして先日行われた辞令式で私は希望していた企画課第四企画部に配属されたのだ。
「嫌な先輩とかいないか心配だなぁ」
 不安げに瞳を揺らす朋美が配属されたのは総務部経理課。社内研修中に聞いた噂によると女性社員ばかりの職場で、けっこう面倒なことが多いとか。
 まだ実際に現場に入っていないけれど、そんなことを聞いていた手前、朋美はずっと不安がっていた。
「大丈夫だよ、朋美。先輩みんなが嫌な人とは限らないじゃない! それに私だって同じ。今年企画部に配属されたのは私ひとりだけで不安だし、嫌な先輩がいないか心配だもん」
 そうだ、不安なのは朋美ひとりだけじゃない。私もそうだし、きっと新入社員はみんな同じはず。
「そうだよね、綾乃も不安だよね。……うん、初日からこれじゃだめだね! 気合い入れていかないと!!」
 両手拳を握りしめた朋美に笑ってしまった。
「じゃあ私も気合い入れよ」
 真似て両手拳を握りしめると、朋美は可愛らしく頬を膨らませ「バカにしているでしょ?」と言いながら肘(ひじ)で突いてきた。
 そんなことをお互いしていたら、いつの間にか顔を見合わせ笑ってしまっていた。
 入社式の日も不安だったけど、いざ今日から社会人として実際に職場で働くかと思うと、不安と戸惑いが大きい。でもそれと同時に楽しみでもあった。

ご意見・ご感想

編集部

もう会うことはない人だから伝えられること
もう会えない人だけれど伝えられないこと
伝えたれた願いと伝えられなかった想い……

そんな甘くてほろ苦い思い出、皆さんにはありますか?
綾乃ちゃんはとっても良い子なのに自分に自信がありません…
そんな彼女は、いつも優しくしてくれる学生時代の先輩が大好きで…(*´艸`*)
でも妹みたいに接してくるから、余計に好きだなんて言えませんよねっ!
だから学生時代の最後に郡司先輩と最高の思い出を………………

しかし、彼は綾乃ちゃんの職場の先輩として再び現れます!!!Σ(・口・)
それも「傲慢王子」という称号を得て!?Σ(T□T)

相変わらず綾乃ちゃんにだけは、溺愛とのレベルで優しく接してくる郡司先輩っ
まるであの日のことなんてなかったかのような、そんな態度……
そして学生時代よりも更にグレードアップしている先輩の女性関係の噂に、
綾乃ちゃんの心は激しく揺れ……

再び「先輩」と「後輩」となったふたり
一番近くて、だから誰よりもすれ違ってしまうふたり
あの日、本当に叶えたかった願いと本当に伝えたかった想いを
綾乃ちゃんは郡司先輩に届けることはできるのか…
本編でぜひお楽しみ下さい☆

2017年3月31日 9:24 AM

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