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不器用なご主人様の盲目的な愛情

  • 作家黒田美優
  • イラスト蘭蒼史
  • 販売日2018/5/29
  • 販売価格400円

雪が降った日、空腹、疲労、そして耐え難い寒さから、天涯孤独のミアは力尽きて路上に倒れてしまう。絶体絶命のミアを助けてくれたのは、アルバートという名の秀麗な男性だった。最初は警戒したミアも、アルバートと接しているうちに彼は言葉数が少なく不器用なだけだと悟る。助けてくれたアルバートに報いたい。そう思ってメイドの仕事をするがアルバートは賛成ではない上に、なんだか避けられているような気がする。そんなアルバートの態度にミアもまたなるべく彼の邪魔にならないようにと気を遣う。悩むミアと同様に、アルバートも麗しく変貌するミアに戸惑っていた。不器用な二人、互いを意識しつつもうまく想いを伝えられなくて――

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第一章 雪の日に拾われて
 今度こそあたしは死ぬんだ。
 先ほどまで震えるほど寒かったのに、その感覚さえもうない。
 雪の上に倒れ、起き上がる力すら残っていなかった。
 思えば、何度も死にそうなくらい辛い目にあってきた。
 物心ついてすぐに両親が亡くなったり、引き取られた孤児院がつぶれたり、路上で生活をしていたら攫われて売られそうになったこともあった。
 けれど、なんとか今まで生きてこられたことが何よりも幸運といえるだろう。
 仕事に恵まれ、食事に困ることなどなかった。
 でも、どうやらここまでみたいだ。
 今年の冬は異常に寒かった。
 十九年生きてきた中で初めて雪が積もり、この街を白く染めた。
 作物は不作、街の人たちも必要最低限しか外に出ない。路地裏で生活するあたしは、高騰していく食べ物を買うことも、その日限りの仕事すらなく、お金を稼ぐことができないでいた。
 もう何日も食べていない。
 寒さも、痛みも、空腹も感じない。とにかく眠かった。
「おい」
 声が聞こえた気がしたけれど、一度閉じかけたまぶたを開けることは難しい。
 もう、すべてのことがどうでもいい。死んでもいい。生き続ける理由もなかったのだから。
***
 まぶたの裏に光を感じた。同時に温かさや、パチパチと薪が爆ぜる音が聞こえてくる。
 ゆっくりとまぶたを開きながら、天国は暖炉みたいに暖かいのかと思った。
 ぼやけた視界がはっきりとしてくると、目の前にあったのは本物の暖炉だった。
 体の節々が痛いので、目だけをキョロキョロとさせる。
 明かりのない部屋で暖炉だけが温かな光を放っている。あたしは暖炉の真ん前で清潔な白いシーツに体を包まれていた。
 暗い中、目を凝らす。
 暖炉の上に花の油絵。立派な一人がけのソファ。本棚には分厚い本がたくさん。どうやらここは天国ではないらしい。
 知らない部屋で目覚めるこの状況があたしにとって不快だった。
 今思い出しても胃がむかむかしてくる。
 おととしの冬。
 路地裏で頭を殴られ、気絶したところを拉致された。
 そのときもこんなふうに、薪が音を立てて燃えていた。手足を縛られ、布を噛まされ、冷たいコンクリートの上に転がされていた。
 けれど今回は幸いなことに、手足は縛られていない。
 逃げるなら今だ。
 体が温まってくると痛みや空腹が戻ってきていた。フラフラしながら体を起こし、立ち上がろうとする。
 しかし、変に力が入り、シーツに足を取られた。そのまま派手に転んでしまう。
「いっ!」
 ソファに備え付けられたサイドテーブルで後頭部を派手に打つ。その衝撃で舌を噛んでしまった。
「つぅ……っ」
 打ったところを両手で押さえ、うずくまる。
 最低、最悪、ツイてない。
 涙目で赤く燃える薪をにらみつける。サイドテーブルに手をつき、もう一度立ち上がった。
「起きたか」
 氷みたいに冷たい声色が部屋に響いた。驚いて声がするほうへ体を向ける。
 半分だけ開いた扉から長身の男が顔を出していた。
 しかしそれも暗い部屋の中では、そいつがどんな顔かはわからない。
 けれど勝手にこんなところへ連れてきて、悪いやつに決まっている。
 あたしは暖炉の横に立てかけてある火かき棒を手に取って、大声を出した。
「くるな!」
「お前、女か」
 あたしの言葉にも構わず部屋へ、一歩、また一歩と入ってくる。
「くるなって言ってるだろ!」
 やみくもに棒を振り回すと、カーテンに引っかかり取れなくなった。
 カーテンに気を取られている間に、男はあたしの目の前に立っていた。でかい男だった。身長も、体のパーツひとつひとつがとにかくでかい。
 暖炉の火で男の顔が照らされて、あたしは震えあがった。怖かったのだ。切れ長の鋭い目つき。それがあたしを見下ろしていた。
「女でも、ここまで暴れれば獣みたいなもんか」
 男はそれだけ言うと、あたしの両脇を両手で掴み、持ち上げる。
「おい! 放せ! 下ろせ!」
 なんとか逃れようと足をばたつかせ、男の体を何度も蹴る。それでも男は痛いとも言わず、あたしを部屋から連れ出そうとした。

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