夢中文庫

あなたのカラダであたためて

  • 作家藍川せりか
  • イラスト花岡美莉
  • 販売日2015/12/15
  • 販売価格300円

水野涼子は、ネットセキュリティ会社の超優秀なホワイトハッカー。ただ一つ、決定的な弱点は極度の冷え症だということ。体が冷えてしまうと使い物にならずに眠ってしまう変温動物のような体質だった。先輩の夏木太陽は、涼子の異変にすぐ気が付き、温めてくれることになったのだが、彼の思いついた方法が人肌で温めるというものだった!涼子が意識のない状態で抱き合っていると、発情してしまった彼に抱かれてしまう。それから涼子の体温が下がるたびに温めてもらうようになるのだが、夏木が他の女性を可愛いと言っているのを聞いてしまって、二人の関係は少しずつ変化しはじめる。寒いカラダを温めるだけの関係から、熱く結ばれる日が来るのか……!?


 ああ、もうダメだ。目の前が霞む……。
 パソコン画面を見ていたはずの視界が歪み、私はデスクに突っ伏して重たくなるまぶたに逆らえずにゆっくりと目を閉じた。
 私、水野(みずの)涼子(りょうこ)は、S・Net株式会社というネットセキュリティを専門に扱う会社でホワイトハッカーをしている。
 簡単に言えば、企業のウイルス対策をしたり、情報漏えいの有無を調べたりという仕事だ。昔からパソコンには詳しかったし、細かい作業も好きだったので、天職だと思ってる。
 けれど、私には致命的な弱点があって、周りの温度の影響を受けやすく、寒いと思考が回らなくなって眠ってしまい、変温動物のように冬眠してしまうという体質の持ち主なのだ。
「おい、水野、大丈夫か!?」
――遠くから夏木さんの声がしている。
 私よりも二つ年上の直属の先輩である夏木(なつき)太陽(たいよう)さんは、頼りがいのある優しい男性。愛想がよくて、周囲からの信頼も厚く、いつも無愛想な私のフォローをしてくれる。
 長身で、誠実で優しい性格が滲(にじ)み出ている顔は、笑うと目が細くなって可愛いし、真剣なときは凛々しくて女性社員から絶大な人気がある。
 上司から彼とペアを組むように言われて一緒に行動することが多く、あるとき私のこの体質についてぽろっと話してしまった。
 それからというもの、私の調子が悪いとすぐに気が付いて声をかけてくれるようになったのだけれど……。
「今お前がいなくなったら、この停止してしまったサーバーはどうするんだよ? あと少しで全部終わるのに、このまま放置したらまた同じことの繰り返しだぞ」
――分かってる。二時間以内に原因であるウイルスを排除してシステムを復旧させないといけないんだけど、今はとにかく眠いの。何も考えられない……。
 夏木さんが、眠りこけている私の体を揺らすけれど、冬眠モードの私は無反応。……いや、うっすらと意識はあるんだけど、体が動かない。
「寒かったなら、寒いって早く言えよ! ……もう仕方ない、今からなんとかしてやるから!」
 デスクから剥(は)がすようにして私の体を持ち上げた夏木さんは、おんぶをしてオフィスの外へと走り出した。
 ああ、夏木さんの背中、あったかい……。上からかけてくれたジャケットも、彼のぬくもりが残っていて心地いい。
 それでもまだ芯まで冷えてしまった私は脱力したままで、彼の背中の上で眠りこけていた。
「……つ、ついた」
――どこに着いたんだろう? なんだかふわふわのところに体を下ろされたけど……。これってベッドの上? ってことは家? でも誰の……?
「べ、別に変な意味はないから」
 遠くで布擦れの音が聞こえてくる。
 一体、ここはどこなのよ……? ああ、でも目を開ける元気がない……。
「雪山とかで遭難したときって、こういうことをしてるし……。それなりの効果があるってことだよな?」
――へ? なんの話? なんだか嫌な予感がするんだけど……。
「今、風呂を沸かしているから、それまでの間これで我慢してくれ」
 温かい部屋の中で、ふわふわの布団の中に押し込まれた。そして体の上に人肌を感じると同時にぎゅっと抱きしめられた。
「水野が服を着ていたら、俺の熱が伝わらないか……。ごめん、見ないようにするから、脱がせるよ」
――ええ? ちょっと待って!
 私のスーツを脱がして、下着姿にした夏木さんは、再びぎゅっと抱きしめて彼の体温で温めてくれた。
 夏木さんの心臓がドクンドクンと鳴っているのが聞こえる……。
 熱い体温に包まれて、冷たくなっていた体は少しずつ息を吹き返すように温まり始める。すべすべの夏木さんの肌は気持ちよくて、それでいて彼の優しい香りがして安心する。
 ゆっくりと肩や腕を撫でてくれて、冷えた指先を握り締めてくれたりもした。
 気が付けば無意識に、夏木さんの背中に自然と手を回していた。
「ああ、だめだ……。ごめん」
――あの……。太ももにとても硬いものがあたってますけど……。
「そんなつもりじゃないんだけど……でも……」
 何も答えない私に対して、ぶつぶつと言い訳をしている様子を聞いているうちに、彼の顔が私の首筋に埋まり、軽く唇を当て始めた。

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