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恋に落ちた野獣王子

  • 作家藍川せりか
  • イラスト夜咲こん
  • 販売日2018/8/7
  • 販売価格300円

高校生の時、椿は勘違いから思いっきりビンタを食らわせてしまったことがある。相手は森直之。見るからにモテそうなイケメンだった。あれから五年、社会人になった椿は母の会社で働いている。ある日、父と路上で立ち話をしていると、いきなり肩を掴まれ「僕の彼女なんですよ」とキスされてしまう。驚きつつもファーストキスを奪った男の顔にビンタをさく裂させる。なんと相手はあの森だった。怒り心頭の椿。だが翌日、取引会社に出向くと、またしても森と再会する。呪われている!? そう思う椿に森はビンタを咎めることもなく、そればかりか椿のミスをカバーまでしてくれて――ああ、もうドキドキがとまらない!

プロローグ
 今でもたまに思い出すことがある。
 新生活シーズン、桜が満開の春。俺──森(もり)直之(なおゆき)の勤める【V-office】はオフィス用品を取り扱う会社ってことで、繁忙期を迎えていた。
 化粧品メーカーから取引をしたいと言われて、OLに向けての新商品のPRを受けていたところ、セーラー服を着た女の子が勢いよく入ってきた。
「うちのママに色目を使うんじゃない! 変態ヤロー!」
 まさか女子高生からそんな言葉を浴びせられるなど思いもよらず唖然としていると、追い打ちをかけるように平手打ちをくらわされた。
「椿(つばき)! 何をしているの!!」
「私知っているんだから。ママとこの人、デキてるんでしょ? パパと離婚したのも、この人が原因なんでしょ!」
 なんという濡れ衣。
 どうやらこの失礼極まりない女子高生は、MWコスメティックスの社長の高峰(たかみね)さんの娘らしい。高峰さんは四十代の女性で、女手一つでこの会社を立ち上げ成功に導いた敏腕社長。
 つい最近離婚をされたのだと聞いたけれど、もちろんそれは俺のせいではない。
 しかし椿という名の女子高生は謝ることをせず、終始俺を睨みつけていた。
 大人になるとこんなふうに感情的になることなんてないし、勢いで行動するなんてことも少なくなる。
 これが若いってことなのかなーなんて、彼女のことを見ていた。
 女性に対して声を荒げて怒るなんてナンセンスなことはしないし、別にこんなふうに頬を叩かれてもいいんだけど。
 なぜか未だに忘れられない出来事。
──あ、そうか。俺、女の子に殴られたことなかったんだ。

「本日はお忙しい中、逢坂(おおさか)俊介(しゅんすけ)、樋口(ひぐち)芽衣子(めいこ)の挙式に足を運んでくださり、誠にありがとうございます……」
 一流ホテルの会場で挙式ねぇ。ありきたりだけど、細部までこだわってあって、なかなかいいセンスしているなぁ、なんてグレーのタキシードを着た同期の逢坂のことを見てビールを飲む。
 逢坂と芽衣子ちゃんが付き合い始めたのって、俺らが二十五くらいのときだったから、丸三年ほど付き合って結婚したのか。
 順風満帆な逢坂に比べて、俺は未だに独身のままで適当に遊んでばかり。
 会社で女性社員たちは俺のことを“営業部の王子さま”なんて呼んでいる。
 見た目も然り、海外で身に着けたレディーファーストを心掛けているせいで、そんなふうに呼ばれるようになった。
 一応面倒なことを避けるため、会社の女の子には手を出さないようにしている。
 本気で付き合う気がないのに、中途半端に手を出してしまったら、あとあとややこしいことになりかねない。自らの首を絞めるようなことはしない主義だ。
 今まで付き合った人数は、数えきれないほど。俺はどこかのネジが外れているんじゃないかってほど、女性が好きで手当たり次第モノにしていく。
 相手に恋人がいようといまいと関係ないし、結婚していても問題ない。とにかく本能のまま食い散らかす、見た目からは想像もつかないほど肉食丸出しの最低な男。
 そんな男だってことは誰も知らない。俺の上辺だけに惚れて、抱かれて、恋をしている気になって、自分のものにならなくて怒って離れていく。
 女って自分勝手なんだ。だから本気にならない。
 少々……いや、だいぶ屈折している性格をしているため、逢坂のように結婚するなど自分には起こりえないことなのだろうと思っている。
 高砂席で幸せそうに微笑む芽衣子ちゃん。純白のドレスに身を包んで、何度も逢坂の方を見つめて幸せそうにしている。
 そんな二人の新しい門出を祝いながら、俺はどこか寂しさを感じてビールを何杯も飲んでいた。

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