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侯爵家の躾係は誘惑のキスに困惑中

  • 作家朝陽ゆりね
  • イラスト八美☆わん
  • 販売日2019/8/19
  • 販売価格800円

『マドレニア女学院』の校長は、怖い厳しい、で有名である。そして、その一人娘エリーは反対におとなしく引っ込み思案であることで有名だった。……ある日、エリーは母である校長から、住み込みで侯爵家の躾係をするよう命じられる。年上と身分の高い人が苦手な彼女が、ビクビクしながら侯爵家で挨拶をしていると、騒々しい足音と共に三人の子供たちが現れる。そのあまりのやんちゃぶりにエリーのスイッチが入ってしまい――「だまらっしゃい! 三人、連帯責任です!」そこに現れた侯爵の弟ラディアスに魔女退治と称してファーストキスを奪われてしまう! それからというもの、躾をしているとお決まりで〝魔女退治〟をされてしまい……!?

第一章
「ええええ……そんなの無理です」
 エリーは膝の上に置いている手をぎゅっと握りしめた。おかげで淡いピンクのドレスに大きなしわが寄る。
「確かにあなたでは不安だけれども、報酬がすごいのよ。学校の運転資金も欲しいし、なによりあなたの嫁入り用の軍資金にいいじゃない」
「でも」
 結婚の予定などまったく欠片もないのに軍資金などと。エリーは恐る恐る反論しようとした。が、母マーガレットの目が鋭くキラリと光る。
「行きなさい!」
 怒鳴られ、エリーの目がうるうると潤み、唇は引き結ばれて波打っている。情けない娘の顔をマーガレットは一瞥すると体ごと背けた。そしてさっさと行きなさいとばかりにシッシッと手で払う。
「お母さま、お願いします。断ってください」
「できるわけがないでしょう。相手は侯爵家なのですよ」
「ふさわしくないと申し上げれば納得くださるはずです」
「わたくしの娘が情けなくふさわしくないなど、どの口提げて言えるのです。我が校の名を貶めるつもりですか?」
「それは……」
「あなたは栄えある『マドレニア女学院』の校長の娘なのです。創始者である曾祖父母、威厳を守ってきた祖父母、そしてわたくしの顔に泥を塗るつもり?」
「………………」
 エリーはチラリと視線を動かした。
 母の執務机の横には、その机に向かって秘書用の執務机が設置されている。そして秘書のマリアンヌが座っていた。マリアンヌは今年になって採用になった新しい秘書で、やっと三か月になったところだ。
 助けを求めてマリアンヌを見るものの、彼女は話に加わることなくせっせと自分の仕事を遂行していて、こちらに顔を向ける気配もない。
「どうしても嫌なら、自ら行って断っていらっしゃい」
 エリーがしょぼんと肩を落として小さくなった。
「話は終わりました。わたくしは忙しいのです。さっさと行って支度をしてきなさい。お迎えが来るのは明日の正午です」
「……は、ぃ」
 エリーが消え入りそうな声で返事をすると、マーガレットが顔を向ける。
「聞こえません。きちんと返事しなさい!」
「はいっ、かしこまりましたっ」
 やけっぱち半分で叫ぶように言い、エリーは淑女の礼をして校長室を逃げるようにあとにした。
「校長、やはりエリーには無理では……」
「無理でもなんでも断れないのだから仕方がありません。確かに不安はありますが大丈夫でしょう。ダメだったらその時に考えればいいだけのことです。まぁ、スイッチが入ればいいだけのことですから」
「スイッチ?」
「ええ。ほほほほほっ」
「………………」
 急に高笑いを始めたマーガレットに対し、マリアンヌは小首を傾げつつ心配そうにエリーが消えた扉に視線をやった。
 リトアス王国の王都には『マドレニア女学院』という庶民の娘たちが通う学校がある。庶民の娘と言っても、女学院に通わせようかと考える親なのだから、相応に裕福な家の娘たちだ。
 十三歳から十七歳までが対象で、貴族の邸への奉公修業と結婚が決まった者の花嫁修業の二コースがあり、一コース三十人くらいで、両コースとも修業期間は二年。そして例外なく寮生活であった。
 この二年間で実務だけではなく、それぞれに必要な知識もみっちり勉強させるため周囲の評判はとてもよく、ここの卒業生たちの働きは貴族の間でも高く評価されている。それゆえ入学希望者は毎年定員をオーバーするほど盛況だった。
 とはいえ私学校のため国からの援助はなく、学費と貴族たちからの援助で賄っているため人気はあっても規模はそれほど大きくない。
 校長のマーガレット・カレドアは“怖いおばさん校長先生”として周囲には知れ渡っている。体罰はけっして行わないが、態度や言葉遣いが悪ければ常に手に持っている教鞭で、生徒の付近にあるものを容赦なく叩いて叱りつける。ピシリと大きな音を立てられれば、子どもは恐怖におののいてしまうのであった。
 そんなカレドア校長の娘がエリーだ。現在、十八歳。レモンブロンドの巻き毛と大きな緑色の瞳が愛らしい娘ではあるが、彼女もまた母親に負けず劣らず評判であった。“校長先生とは超絶真逆”と。

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