夢中文庫

恋だけじゃ終われない

  • 作家あゆざき悠
  • イラスト冴月ゆと
  • 販売日2019/01/11
  • 販売価格300円

同期はみんな次々と結婚が決まり、自分も結婚を意識するものの、今は仕事にもやりがいを感じている──畠山麻衣子、二十八歳。相手がいないわけではない。付き合って四年の彼、烏野慎司とは半年前から同棲を始めている。銀行員の麻衣子と企業コンサルタントの慎司は仕事の知識を高め合うし、プライベートの趣味も一緒に楽しめる仲良しカップル。しかし、彼に結婚願望があるのかどうか、わからなくて──いざ、聞こうと思っても彼からの答えが怖くてできない。それに麻衣子も仕事が楽しいし責任もあるから、すぐに結婚できないけれど……でも、結婚の約束をして欲しいなんてわがまま?

第一章 二十八の女たち
 金曜日の夕方、イタリアン風のダイニングバーに彼女たちは集った。外は雪がちらつくバレンタインデー直後の金曜日だ。
「お久しぶり」
「元気だった?」
 口々にお互いの近況を探り合う六人は、大手銀行の同期入社組だ。最初の支店が一緒の六人は意気投合し、お互いに異動になっても時間を合わせて食事会をしていた。
「じゃ、久しぶりの再会に乾杯!」
 六人の女性のうち、一人がそう声を張り上げて久しぶりの女子会が始まった。
「六人みんなで会うのって、二年ぶり?」
「違うよ、三年ぶり。なかなか六人全員で会うこともできなかったよね」
「三年も経ったんだ」
 そんな声をあげたのは畠山(はたけやま)麻衣子(まいこ)だった。
「しんみりした声を出さないでよ、麻衣子」
 斜め前に座った気の強そうな彼女は、この同期会の幹事をいつも引き受けてくれている堂島(どうじま)早苗(さなえ)だ。
「早苗も結婚決まったんだよね?」
 別の人が声を掛け、いつもは気の強い早苗が照れたように笑った。
「うん、六月に式を挙げる予定。来月、入籍するの」
 早苗の幸せそうな顔を麻衣子はにこにこしながら見ていた。
「それにしても意外だよね。一番に結婚するのは麻衣子だと思っていたのに」
「そうそう、キャリアになるのは早苗だと思っていたのにね。麻衣子以外が結婚しちゃって、それに麻衣子は異動したんでしょ?」
「うん、支店の異動は半年前だったんだけど、来月から担当部署が変わるの」
 麻衣子はやりがいのある仕事を任され、充実している。
「ね、麻衣子はあの彼とはまだ続いているんだよね?」
「心配しなくても大丈夫よ。麻衣子、半年前から彼と一緒に暮らしているもんね」
 早苗がそう言い、麻衣子は苦笑を浮かべた。結婚して子供がいる三人はパートタイムの銀行窓口担当だ。早苗は少し前まで麻衣子と同じ支店で、彼女は指導員として窓口担当の新人をトレーニングしていた。別の支店に異動した後も、同じように窓口指導員として働いていると聞いている。もう一人は年末で退職し、旦那さんの家業を手伝っているはずだ。
「半年前から同棲? ねぇ、その時に結婚の話とか出なかったの? 麻衣子って彼とは何年目?」
「四年が経ったくらいかな。結婚の話はしたことがないかも」
 麻衣子の言葉に既婚者たちは目を丸くする。
「麻衣子、仕事が変わるんでしょう?」
 早苗が助け舟を出してくれて、麻衣子は頷いた。
「うん、今まで個人向けの財テクをプランしてきたんだけど、企業向けのプランを提案することになってね。またしばらくはセミナー漬けかな」
 仕事の話で盛り上がるのは早苗と麻衣子だけだった。
 ほかの人たちは育児の話や家族の話で盛り上がっている。育児の話も旦那さんの話も麻衣子にはよくわからなかった。
「麻衣子と早苗は今もよくご飯に行くの?」
「先月、早苗が異動になってからは今日が久しぶりに会うって感じだよね」
「支店は近いのに、麻衣子と会う機会は少ないからねぇ」
 お互いの近況報告を済ませつつ、麻衣子はみんなの顔を見ていた。変わらないと思っていたが、それぞれの年月を感じさせる表情が垣間見える。
(そうだよねぇ。二十八だもん。行員は結婚が早いって言うけど、本当に早いなぁ)
 麻衣子はぼんやりとそんなことを考えていた。
「それにしても麻衣子が最後になるとは思わなかったよね」
「うん、私たちの中では一番に彼氏ができたし──ねぇ、麻衣子は彼とどんな感じ? 四年も付き合っているといろいろ変わらない?」
 麻衣子は少しだけ首を傾げる。
「仕事もセミナーで会うことが多いのは変わらないかな。週末、お互いに休みが合えば映画に行くくらい。平日は朝ご飯だけ一緒で、食事は別々が多いかも」
「喧嘩にならないの?」
「なったことがないなぁ」
 麻衣子の答えに友人たちが驚いているのがわかる。
「学生の時みたいな恋愛だね」
「喧嘩にならないって、お互いに踏み込んでいないからなの?」
 友人たちに詰め寄られても麻衣子は答えられなかった。付き合い方は人それぞれだとは思うが、そこまで人と違うから結婚できないと言われたようで心が痛い。そんな麻衣子の隣で早苗が別の話を振ってくれたようだ。しかしみんなの話は麻衣子の耳に入ってこなかった。

オススメ書籍

簡単な約束だろ?~束縛課長のみっつの蜜約~

著者如月一花
イラスト繭果あこ

「俺と付き合うなら、みっつ約束して欲しいんだけど」──友人にけしかけられ、憧れの中島課長に告白することになった奈央。OKをもらえるはずがないと思いながらもいざ告白すると…なんと「みっつの約束」を守ることを条件にOKがもらえる! その約束の内容に困惑する奈央をしり目に、キスとそれ以上の行為を求めてくる課長。その場はなんとか逃れたが、その後も甘く迫られ束縛され、翻弄される日々が続く…。課長に似合う女性になろうと努力し、約束を守ろうと奮闘するも、空回りしてしまう奈央。ある日、課長がきれいな女性とふたりでいるところを目撃してしまう! 戸惑い、自信をなくした奈央に課長が語る「みっつの約束」の真相とは…?

この作品の詳細はこちら