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シンデレラの正体は?~麗しい幼馴染と懊悩する伯爵令嬢~

  • 作家東万里央
  • イラスト藤谷一帆
  • 販売日2019/9/25
  • 販売価格700円

伯爵令嬢ブランシュと王女エレオノールは幼い頃からともに過ごす一番の親友。エレオノールの母はすでに亡くなっており、後ろ盾がなかったために、王女は王宮で冷遇されていた。それでも、ブランシュは美しく聡明なエレオノールが大好きで、世間の目などまったく気にせず、毎日仲良く遊んでいた。ところが、エレオノールはある日急な病で床にふせてしまう。一方、年頃を迎えたブランシュは社交界デビューの舞踏会で、麗しく高貴な雰囲気の青年・レオンと出逢う。どこかで会ったような気がしてならず、レオンに心惹かれるブランシュ。すると、思いがけない場所で再会! お互いの想いを深めていくのだが……?

プロローグ
 ブランシュがまだ六歳だったころのことだ。父に生まれて初めて王宮に連れて行かれた。
 ブランシュはランド軍歩兵旅団将軍である、武勇名高いロベール・ドゥ・シャロン伯爵の末子である。シャロン伯爵は筋肉隆々とした強面で、頬に傷があり、貴族どころか堅気(かたぎ)とは思えない男だ。黒髪に肉食獣のような鋭く灰色の眼差しが恐ろしい。
 ところが、ブランシュは美女と評判の妻に似たらしく、伯爵が父とは思えぬまことに可愛らしい娘だった。背中まである栗色の巻き毛にエメラルドの瞳の、大きな潤んだ目とバラ色の頬が印象的で、名工の手によるビスクドールを思わせる。
 その可愛らしさが屋敷に立ち寄った国王に気に入られ、こうして伯爵とともに王宮に参上し、末のマリエッタ王女の遊び相手を務めることになったのだ。
 ところが、この王女が我儘である上に気まぐれで、些細なことで機嫌を悪くしてしまう。今日も自分で転んだのにもかかわらず、責任をブランシュに押し付け、「あんたなんか死んじゃえ!」、と遊戯室から追い出したのだった。
 閉ざされた扉を前にブランシュは途方に暮れた。予定ではもう三十分遊んだ後に侍女が迎えに来るはずだった。その予定が思いがけなく狂ってしまい、どうすればいいのかがわからなかった。
 ともかく、父のもとへ行こうと歩き出す。国王と別の部屋で話し合いをするのだとは聞いていた。歩いていれば自分の屋敷と同じように、いずれはそこにたどり着くと思い込んでいたのだ。
 シャロン邸は王都の西側にある、こぢんまりとした貴族にしては簡素な屋敷で、子どものブランシュでもすべての部屋を回るのに一時間もあれば足りる。ところが、王宮の廊下はどこまで行っても果てがなく、ブランシュは迷子になってしまったのかと慌てた。
 どこからか泣き声が聞こえたのは、それから五分ほどしたころのことだ。どうやら同じ少女らしいと見当がつく。声のするほうを追ううちに中庭へと辿り付いた。
 神話の迷宮のように広大で豪勢な庭園に比べると小規模で、噴水を中心に、小ぶりな薔薇などの花々に溢れている。泣き声はその茂みの下から響いてきた。
「ねえ、誰かいるの?」
 ブランシュがしゃがんで覗き込むと、そこには泥だらけのドレスを着た少女がいた。ブランシュよりは二、三歳ほど年上だろうか。黄金の川のような金髪にアメジストの瞳。くっきりとした眉と煙る睫(まつげ)。頬はソバカス一つなく滑らかで、鼻はすっと通って唇は薄く品が良い。幼いながらも完成した美貌だった。
「あ……あなた、だあれ?」
 少女がびくりと肩を竦めてブランシュに目を向ける。涙を見られたのが気まずかったのか、慌ててごしごしと目を擦った。
「あんたこそ、誰なんだよ」
 少女にしては少々乱暴な言葉遣いだった。だが、ブランシュは気にせずにっこりと笑って隣に座る。一方、少女は突然現れたブランシュと、その屈託のなさに戸惑っているようだ。


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