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99%の恋人?拗らせ気味な彼との恋愛検証

  • 作家藤谷りく
  • イラスト夢志乃
  • 販売日2019/03/12
  • 販売価格600円

天性の人たらしで気難しい仕事相手も手懐けてしまう、なのに恋は勘違いスタート&即失恋する上司、高瀬。彼の補佐を務める紗矢は、同僚たちと定期的に高瀬の失恋慰労会を開いていた。ある時、高瀬と紗矢は自分たちが開発したマッチングアプリでAIに相手を探してもらうことに。結果で表示されたのは互いの名前!? しかも、相性は99%!? AIは嘘をつかないと強気な高瀬、それを女の勘で否定しようとする紗矢。「AIと女の勘、どっちが正しいか検証してみよう。まずはお互いを知るところから始めようか」──実は過保護すぎ拗らせ上司に、物理的処女。ふたりは運命の相手だと証明されるのか!? そして高瀬が拗らせた原因とは……?


「OK出ました、撮影終了でーす! お疲れ様でしたー!」
 小さなモニターから顔を上げた年若い監督の一声で、場の空気と共にカメラの前にいた新郎新婦の顔がホッとしたように綻ぶのが見えた。
 あちらこちらで交わされる「お疲れ様でしたー」というお決まりの挨拶や、他愛ない雑談で賑わうスタジオの端、私は一足遅れでそっと息を吐き緊張を解く。
「いい宣伝になりそうだな」
 不意にかけられた声に視線をやれば、壁に寄りかかっていた田淵(たぶち)さんがゆったりと腕を組みかえるところだった。
「ホント、すごく素敵な絵が撮れましたね。出来上がりが楽しみです」
 言いながら視線をもとに戻した私は、挨拶もそこそこに逆方向へと離れていく新郎新婦をぼんやりと目で追う。
 ほんの数秒前まで幸せそうに見つめ合っていた二人が、監督の一声で互いのことなど眼中にすらない他人に戻るのだから、流石というかプロの切り替えの良さは目を瞠るものがある。
 今日撮影したのは、我が社が今一番力を入れているマッチングアプリ『Destiny』の宣伝CMだ。
 大手結婚相談所と共同開発したこのアプリは、従来のマッチングアプリの機能に加え、入力した情報をもとにAIが相性のいい相手を選別しリストアップしてくれるというのが売りの一つになっている。
 無料体験版の登録者数はリリース後あっという間に万単位の数字を叩き出し、有料登録者数も順調に伸ばしているところだ。
「田淵さんも挨拶に回らなくていいんですか?」
 広報課課長として課を代表して来ているにも関わらず、一向に挨拶に行こうとしない田淵さんに問えば、あれを見ろとでも言いたげに顎をしゃくって見せられた。
 促がされるように視線を向ければ、そこに相談所側の上役とまるで旧知の仲のように楽しげに談笑する直属の上司の姿を見とめ、私は説明要らずで納得する。
 今はそのタイミングじゃないということだ。
「高瀬(たかせ)さんの人たらしぶりは才能ですね」
 気難しく扱いが難しいことで知られる上役も、高瀬さん相手にはただの気のいいご機嫌な紳士になってしまうのだからすごい。
 最初の顔合わせの時、IT企業を胡散臭い物扱いして、マッチングアプリをいかがわしい害悪のように言い捨てていた人が、今じゃ態度も言ってることも百八十度ひっくり返っているのだから。
「ああ。あれは天性の才能だな。仕事絡みでしかろくに発揮されないのが少し惜しいところだが──」
 言葉ほど惜しがっている様子もなく、愛煙家の田淵さんは口寂しさを誤魔化すように下唇をなぞりながら緩く目を眇める。
 その顔に、何か気づいたような気配を感じた私は、談笑の輪へと目を向けた。
「……」
 笑顔で上役に応じながら、時折チラチラと視線をよそにやる高瀬さんに、もしやと思ってその視線を辿れば、その先には若い女性スタッフの姿。
 そして、示し合わせたわけでもないのに同じタイミングで溜息をこぼしたということは、田淵さんも私と同じことを考えているということだ。
「いつもの、ですね」
「ああ。せっかく今日は早く帰れそうなのに、全くもって迷惑な話だな」
 うちの上司の悪癖発動にとっくに気づいていたらしい田淵さんは、やれやれといった様子で肩を落として見せるものの、その口ぶりはさほど迷惑がっているようには聞こえない。
 それは長い付き合いで育まれた友情のお陰なのか、もはや諦めているだけなのか、その真意まではわからないものの、いつものお決まりコースが確定していることだけはわかった。
「──あの精神童貞が」
 仕方ない奴だとでも言いたげに田淵さんが呟いた。
「絶対俺に気があるって思ったのに……思わせぶりな態度しといて、いざ声かけたら『田淵さんって独身ですか?』だよ。何このオチ。田淵くんに直接聞けばよくない?」
 ドンッとグラスを置いて、赤ら顔をした高瀬さんが盛大な溜息を吐いて項垂れる。
──ああ、始まった。
 秋期限定ピオーネサワー一杯でお手軽に出来上がれる上司がグズグズと愚痴り始めたところで、直属の部下であり彼の補佐を務める私は、聞き役に徹するべくテーブルに広げたメニューから顔を上げる。
 目が合っただけで自分に気があるかも、なんて勘違いする絵に描いたような思春期男子メンタルを持つアラサー男子は、今日も今日とて恋のセルフスタート&エンドを決めて傷心中だ。

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