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旦那様、甘く甘く囁いて

  • 作家深森ゆうか
  • イラスト夜咲こん
  • 販売日2017/12/15
  • 販売価格300円

エリカは引っ込み思案の大人しい淑女。お見合いで出会ったアーサーはずいぶん年が離れているが、落ち着いた物腰の紳士だったので、求められて結婚を了解した。昼も夜も優しく接してもらって幸せを感じる日々。ある日、同じく新婚の友人の開いたお茶会で盛り上がった「旦那様自慢話」で、どの友人も旦那様から甘い愛の囁きをもらっているということにショックを受ける。「私、旦那様から甘い言葉どころか愛してるとの言葉さえ囁かれていない」落ち込む半面、愛の囁きなどなくても大切にしてもらっているのだからいいじゃない、いえ、やっぱり囁いてほしい……エリカの悩みは深まるばかりで――年の差夫婦の新婚ほんわかラブストーリー。

第一章 旦那様自慢
 エリカ・ブラウンがエクセター地方の有数な資産家アーサー・エイムズと結婚したのは柔らかい風が木々の幼い緑を揺すり、目覚めた花達が花弁をひらく春の季節だった。
 その日は朝から快晴で、一組の夫婦を祝福しているように空は水色に澄み上がり、大気は花の香りで満ちているような、そんな素晴らしい日和だった。
 エリカ、十八歳。
 アーサー、三十八歳。
 歳の差、二十。一回り以上の歳の差婚である。
 エリカとアーサーが生きているこの時代。このような歳の差がある結婚は少なくない。
 二人はアーサーの姉ソフィアが取り付けた見合いで出会い、お互い相手に特に不満がないので結婚を決めた。
 互いの身内は、この結婚を大いに喜んだ。
 エリカの両親は地方の資産家の一人を親族に加えることができたことを喜び、アーサーの身内は──すでに両親は他界しており、家族は姉のソフィアとその家族のみ。
 ずっと独身で女っ気のない弟を心配して、無理矢理取り付けた見合いだった。
 それがあっさりと結婚を決めてきたので、ソフィアもとても喜んでエリカを受け入れる。
 そうして夫婦生活を始めて、半年が経った──
 肩に淡い秋の日の光を感じエリカは、窓を眺める。
 随分と日が延びたのだわ、と初秋の陽光に映し出された窓枠の影に見入る。
 影は窓枠だけでなく、側で咲いている花の影も映っていた。
 コスモスかしら? とエリカは思った。
(うちの庭にも、コスモスを植えてみようかしら?)
 アーサーと暮らす邸の庭は、色味が少なくて寂しい気がする。
 今からではコスモスは間に合わないだろう。春に向けて植える花を考えておこう。
 久々に、友人であるイヴリンの邸にお茶の招待をうけて、こうして彼女の邸にお邪魔をしている。
 彼女も三ヶ月前に結婚をしてようやく落ち着いたということで、気の合う友人を招いてお茶会を開きたいと連絡がきたのだ。
 エリカは散々悩んだあげく、夫のアーサーに相談した。
『いいよ、行っておいで』
 アーサーはあっさり了承してくれて、ホッとしたエリカだ。
 招待をしてくれた友人は飾り気のない、いい女性なのだがなにせ、あけっぴろげな表現の多いお喋りをする。
 結婚式のときも「こんな歳の差のある方と結婚して、将来すぐに介護になってしまうわよ?」と本人の前で言ってのけたのだ。
 本人曰く「えっ? 聞こえないように小声で話したけれど」と絶対に聞こえていないと自信を持って答えていた。
 あの後「もし介護になったら、専門の人を雇うから安心してくれ」と言った時の夫の困惑顔は、半年経った今でもはっきりと思い出せる。
 口は災いの元、という。
 でもエリカ自身、イヴリンの物怖じしない、ハキハキと話していける彼女の性格を少し羨ましいと思っていた。
 なにせエリカは口数の少ない大人しい部類の方で、積極的に自分から話しかけたり動いたりしない。
 受動的な性格だ。
 そんな自分の性格を分かっている。
 なので、アーサーと見合いをするとき、随分緊張した。
 初めての見合いということもあったが、生来大人しく一人で行動しない、異性と一対一で喋るなんてもってのほか、というエリカ。
「話しかけられたら、ちゃんと答えられるかしら?」
「いいえ、私から話しかけられるの?」
「途中で二人っきりになったら、どうしよう?」
「もし、相手に気にいられたら?」
 悶々と考えて夜が明けて、寝不足のまま親に連れられて見合いの場所に行く。
 すでに相手は待っていて──それがアーサーとの出会いだった。
 印象は年相応で、耳上の纏まったグレーの髪が印象的な男性だった。
 単にそこだけ髪が白くなり始めただけなのだが、「ここだけ集中してこうなるのも珍しいと思って」と、ジッと見つめていたエリカに笑いながら話してくれた。
 うっかり不躾な視線を送ってしまったことに、恥ずかしくて真っ赤になって俯いてしまった自分に向かって、
「ちょっとブラリと歩きましょうか?」
 と、手を差し伸べてくれた。
──その手を取ったときから、自分は心に決めていたように思う。
 雰囲気を変えようと手を差し出してくれた、彼の大人の対応に。
 そして、自分に向ける穏やかで落ち着きのある笑顔に。
 自分の判断は間違っていなかったと思う。
 人見知りで慣れていない相手を前にすると、緊張して喋れるものも喋れなくなってしまうのに、彼が相手だと落ち着いて自分のことを話せた。
 それに職業柄、彼は接待にとても慣れていて率先して周囲と話をしてくれ、しかも自分をその輪にうまく誘導してくれるのだ。
 いつの間にか物怖じしないで、会話に入っていたことも度々ある。
 それにエリカ自身、アーサーといると、とてもリラックスして落ち着いて過ごせた。
 結婚して半年──エリカは、ますます夫であるアーサーのことを愛するようになっていた。

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