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腹ぺこドクターの溺甘網~餌付けしたら求愛されちゃいました~

  • 作家ぐるもり
  • イラスト七月モトミ
  • 販売日2019/12/3
  • 販売価格600円

「ね、気づいてる? 今、俺は苅部さんの優しさに付け込んでるって」――総合病院の栄養科で主任をつとめる成美は、祖母直伝のおいしい料理を作ることが大好き。あるお昼休み、静かな中庭で成美の前に現れたのは、整った顔立ちで人気高い循環器内科医の暁(あきら)。医師なのに顔色の悪い暁に、成美はお手製の弁当をあげることになり……「ああ……うま」それから彼のアタックが始まって!? 頑張り屋の管理栄養士に魅了された不養生なイケメン医師。ほしいのはご飯? それとも……?「腹もいっぱいになったし、次は……わかる?」おいしいご飯から始まるラブストーリー!

①きっかけはおにぎり
 祖母の作る料理は、魔法のようだった。
 誕生日には、ケーキのようなちらし寿司。つやつやしたイクラがこれでもかと乗っていて、手作りの桜でんぶは、ほんのりと甘くて何度もつまみ食いをしては叱られた。優しい味の錦糸卵、風味が少し苦手な三つ葉に、れんこん、にんじん、ごぼうに椎茸。
 どれもこれも大切な思い出だ。
「成美(なるみ)は、ばあちゃんの料理が大好きだね」
 と、母親にいつもあきれ顔で言われていた。あの時分には珍しい、色々な料理を作ってくれたのも祖母だった。ピロシキ、ラタトゥイユ……聞いたこともないような名前の料理だったが、どれもこれも美味しかった。祖母の作る料理は全て成美の大好物だった。
「ばあちゃんの料理は本当に何でも美味しい! 明日もまた作ってくれる?」
「もちろんだよ。なるちゃんが美味しいって言ってくれるうちは、ばっちゃんも頑張っからね」
「本当? 嬉しい!」
「美味しそうに食べてる顔を見るだけで、ばっちゃんは嬉しくなれるんだ」
 祖母はたくさん笑う人だった。そのせいか、目尻にはいつもたくさんの皺が寄っている。成美はその皺を更に深めて笑う祖母の笑顔が大好きだった。そして、美味しいご飯と祖母の笑顔は永遠に成美の側にあるものだと信じて疑わなかった。
「ばあちゃん! ばあちゃん!」
 胸を押さえてストレッチャーに乗せられた祖母を追いかける。看護師にやんわり静止されるものの、成美は祖母の側を離れなかった。成美は人目もはばからず叫び、涙を流した。バタバタとどこかの部屋に連れていかれる祖母。入るのを拒まれ、成美は閉められたドアの前に立ち尽くす。しばらくぼんやりとドアを見つめていると、成美の隣を白衣を羽織った人が通り過ぎる。目の前で揺れた白衣に、成美は縋るように手を伸ばした。
「ばあちゃん、ばあちゃんを助けて……」
「……」
「お願い、ばあちゃんを、助けて」
 白衣に縋った手に、大きな手が重ねられる。涙でぐしゃぐしゃになった顔をあげると、優しく微笑む男性と目があった。
「今から処置をする先生は優秀な先生だから。待っててね」
 そう言われ、掴んでいた手をやんわりと離された。成美は小さく頷くと、その男性は、ドアの向こうに消えていった。
 結論から言うと、祖母は心筋梗塞だった。詳しい話はされなかったものの、重症だということは祖母の姿をみれば一目瞭然だった。
「ばあちゃん、もうなるちゃんにご飯作ってやれなくなっちまった」
 病室で横たわる祖母は、成美の方を見ず、ぽつりとそう呟いた。
 酸素と点滴につながれた祖母は、もう台所に立てない。自分でそう思ったのだろう。
「ばあちゃんがいてくれるだけでいいの」
 成美は祖母の手を握り、絞り出すようにそう口にした。いつも温かくて、ふっくらしていた祖母の手は、冷たくかさついていた。まるで知らない人のようで、どこか遠くに行ってしまいそうな気がした。

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