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極上な彼の溺あま恋愛指導

  • 作家花木きな
  • イラスト秋芳あめり
  • 販売日2019/03/29
  • 販売価格500円

気弱な性格で頑張り屋の美優は、仕事で無理をして身体を壊し退職を余儀なくされた。三ヶ月後転職した先で、大学四年間片想いをしていた初恋相手の寛人と偶然の再会をする。歓迎会で女性関係の派手な男性社員に危うくお持ち帰りされそうになった美優を助けた寛人は、恋愛経験ゼロの美優の身を心配して男に慣れる練習をしようと提案。それからふたりは手を繋いだり、抱き合ったり、恋人のような時間を過ごす。美優は嬉しくて舞い上がるような気持ちになりながらも、友達としてしか見てもらえないことに対して切なさも抱くようになる。そんな中で迎えた寛人の誕生日。寛人と女性社員の仲睦まじい様子を目撃してしまった美優が取った行動は――。

プロローグ
 大学生になった春、ひとりの男の子を見て初めて異性を綺麗だと思った。
 高校は女子校だったし、恋愛に興味はあったけれど実際に経験する機会もなく、異性を好きになるという感覚すら分からないでいた私にとってそれはある種の事件でもあった。
 私が彼を見つけた時、入学したばかりだというのに彼の周りには華やかで可愛らしい女の子たちがたくさんいて、人気者の彼を遠くから見ていることしかできなかった。
 そんな彼と仲良くなったきっかけはとても些細な事。その日、たまたま彼の近くにいた私を、離れた席に座っていた友達が大きな声で「美優(みゆう)」と呼んだ。
 別にそこまで珍しい名前でもないと思うけれど、彼の人生の中では初めて聞く名前だったのかもしれない。
 声に反応して、彼は不思議そうな顔で私を真っ直ぐ見つめた。
「みゆう? どういう字?」
 密かに憧れていた男の子に突然話しかけられて、心臓が全力疾走した後のように激しく鼓動し始めた。
 口の中が渇いて喉を潤すこともできず、掠れた声を絞り出す。
「美しいに、優しい」
 これが、私と彼が初めて交わした会話。この日のことは今でも鮮明に覚えていて、可愛らしく首を傾げる仕草や、吸い込まれるような澄んだ瞳が印象的だった。
「へえ。美優にぴったりな名前だな」
 今初めて私という人間が同じ学部内にいることを認識したはずだし、どう考えてもお世辞だというのは理解していた。それでもそんなふうに言われたのが生まれて初めてで、泣きそうになるくらい嬉しかった。
 可愛い名前と言われたことはあっても、その可愛い名前が私に合っているとは言われたことがなかったから。
 それから私は彼を本格的に好きになった。話したことがきっかけでだんだん仲良くなり、夏を迎える頃には十人程集まるグループの一員として共に時間を過ごすまでになった。
 それから大学を卒業するまでの四年間一度も気持ちは揺るがなかったし、卒業して会う機会がなくなっても他の誰かを好きになることもなく、あっという間に三年の歳月が過ぎた──。
終わらない初恋
 先週末に両親と妹と京都へ一泊二日の家族旅行へ出かけ、そのお土産を会社の同僚に配っている最中なのだが、私が購入してきた生どら焼きがどうやら人気過ぎて入手困難と言われている品物だということが判明し、ちょっとした騒ぎに発展している。
「まだ数ある!? 余るならお金払うから譲って!」
「あ! 私にも! これ彼氏が食べたいって言ってたから食べさせてあげたい!」
 同僚たちに興奮気味で詰め寄られ、お菓子の箱をデスクにそっと置いた。
「お土産なのでお金なんていりませんよ。全員に配り終わったので、好きなだけどうぞ」
「ほんと!? ありがとう!!」
「及川(おいかわ)さん、めっちゃいい人~!」
 皆口々にお礼を言い、わっとお菓子の箱に群がった。
 ……私、まだ食べてないんだけどなぁ。
 そんなに有名な代物なら食べてみたかったけど、彼女たちの気迫に押されてしまった。
 まあいっか。すごく喜んでくれたし。少しでも日頃の感謝を返せたのならそれで満足だ。
 朝礼の時間となり、さっきまで浮ついていた雰囲気が引きしまる。
 及川美優、二十六歳。大学卒業後、三年間勤めた会社を辞職してから、自動車部品メーカー『エスフォル』に中途入社してまだ一ヶ月余り。
 前職は営業部だったこともあり、現在配属されている総務部での仕事にやっと慣れてきたところ。
 必死に就職活動をして念願が叶って第一志望だった企業に入れたのに、頑張り方を間違えた私は、たった三年で身体を壊して働けなくなってしまった。
 身長百五十八センチに六十九キロあった体重は五十五キロまで落ちた。
 今まで両手で数えきれないほどのダイエットに挑戦してはことごとく失敗に終わったというのに、落ちる時はあっという間だった。
 とにかく食べることが大好きで、大好物は鶏の唐揚げ。それは今でも変わらないけれど、昔みたいにたくさん食べることはもうできない。
 失業保険を受給しながら三ヶ月ほど休養して、運よくエスフォルに派遣社員として迎え入れてもらえたけれど、実はまだ体調は万全ではない。
 ストレスで十二指腸潰瘍を発症した後遺症がいまだに身体を蝕(むしば)んでいる。
 さらに先週から不眠症の症状が再び現れ、その影響で気力も集中力も低下気味。
 慣れない環境で一ヶ月が経ち、少し疲れが溜まっているのかもしれない。

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