夢中文庫

この婚姻、異議あり!!

  • 作家波奈海月
  • イラスト鈴ノ助
  • 販売日2020/06/09
  • 販売価格800円

和平のため歳の離れた敵国の王へ嫁ぐよう命じられた王女シトゥルーナ。ところが国王はごく近い者にしか姿を見せないらしく、シトゥルーナは婚姻を進めてもらえないまま放置されてしまう。不安な王女を気遣ったのは、国王の親衛隊隊長レット。慣れない土地でその優しさに触れたシトゥルーナは、国王との結婚を控える身でありながらレットに惹かれはじめてしまう。……そんな時、目隠しをされ通された国王の寝室で、王女は視界を遮られたまま初めての悦びを教えられる。――「すべて、俺のせいにしろ」ついに王女が国王と結ばれたと話が広まっていく中、シトゥルーナは、王女としての責任とレットへの想いに揺れて……?

プロローグ
 マイルマ大陸の北西、森と湖の国と呼ばれるサラスト国の王城〈ヴァロリンナ〉。
 その奥深く、王族が居住する内城の扉をいくつも抜けた先にある国王、サラストゥス陛下の寝所に、隣国フリュードより来た王女の姿があった。長きに渡り幾度となく兵刃を交えてきた両国は、王族同士の婚姻を以て終止符を打つことにしたのだ。
「──こちらでお待ちくださいませ。陛下は間もなく参られましょう」
 ここまで案内してきた王城の侍女が、王女の手を取り部屋の中ほどにあった長椅子に座らせる。
 王女の名はシトゥルーナ・ルース・フリューデン。フリュード国の若き王、エドヴァルド・カルフ・フリューデンの妹で、豊かに波打つ亜麻色の髪に煌めく榛(はしばみ)色の瞳の姫君だ。
 けれど今は、その誰もが魅了されてやまない榛の瞳は、包帯のごとく幾重にも巻いた平布によって隠されていた。
 目を患(わずら)ったわけではない。「陛下の命です」と言って、シトゥルーナの夜伽の支度をしたこの侍女によるものだ。
「よろしいですか、くれぐれもその目の布をお取りになられませんように、お気をつけくださいませ」
 そして、もう何度目だろうか。こうして布を取るなと言われるのは──。
 侍女に気づかれないよう小さな溜め息を吐いたシトゥルーナは、膝に置いた手をきゅっと握る。繰り返し言われないとわからない愚か者と思われているのだとしたら、情けない。
 いや、そもそもはどうして目を隠さねばならないのか。元敵国の王女にはいろいろ見せたくないものでもあるのだろうかと勘繰りたくなる。
 そういえば、と二度目の溜め息を吐いたシトゥルーナの脳裏に、初めてサラスト国に足を踏み入れた国境の砦でのことが思い浮かぶ。それから王城で初めて国王陛下と相見えたときのことも。
 国には心配をかけたくなくて、つつがなく顔合わせを果たしたと文にしたためた。しかしあれは、とてもではないが顔合わせと言えるものではなかった。声をかけられることはおろか、玉座を前に頭を垂れていたシトゥルーナが顔を上げる間も与えられず、用意された宮に案内されたのだった。以後誰が来るわけでもなく、まるで人と会うのを憚られているように感じていた。
 とはいえシトゥルーナは、この政略以外何ものでもない婚姻の意味と己の役目を充分理解していた。
 サラスト国王と、年が親子より離れているのは最初からわかっていたこと。乙女ならば憧憬をもって夢見たい婚礼の儀についても、長年の戦禍から国を立て直すことを先に考えたいという話にも納得している。
 だから両国を結びつけ、真の和平をもたらすために自分の務めを果たす。いや果たさねばならない。二国の架け橋となる子をなすのだ。
 その気持ちに嘘はない。大義のために我が身を捧げる覚悟もした。でも──。
 シトゥルーナは、ふと脳裏によぎった人影をぐっと息を呑み込むように、淡い想いとともに心の奥に沈めた。

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