夢中文庫

強引御曹司に注がれる溺愛の味

  • 作家葉嶋ナノハ
  • イラスト澤村鞠子
  • 販売日2019/01/22
  • 販売価格500円

恋人だと思っていた彼に、お前は浮気相手だと告げられた涼子。ボロボロに傷ついた涼子は美味しいお茶が心を癒してくれるカフェへ向かう。そこで出会ったイケメン男性・蒼真は、ひとり泣く涼子の話を聞いてくれた。催淫効果のあるお茶を免罪符にして俺に抱かれればいいと言った蒼真は、ひと晩中、涼子を甘く激しく抱く。翌朝寝ている蒼真のもとから去る涼子だが、後日、新しい職場の御曹司として彼が現れた! 蒼真の補佐にさせられたうえ、同居まですることに!? 「涼子を逃さない」という強引な彼に勧められるがまま、お茶を飲むたびに体が火照り、身も心も溶かされる毎日が始まり……

涼子(りょうこ)には癒しが必要だった。それもとびきりの癒しが、早急に。
 昼休み直前の、事務仕事に区切りがついた時。
 社内電話で主任に呼び出された涼子が受付に行くと、知らない女性が近づいてきた。小柄な女性は可愛らしい装いとは対照的な険しい表情をし、涼子に向かって口をひらく。
「あなたが、道井(みちい)涼子さん?」
「ええ、そうですが。どちらさまで──」
「この泥棒猫っ!」
 避ける間もなく、左頬を平手打ちされた。その衝撃で涼子の体がよろめく。
「ちょっ、ちょっと河野(こうの)さん! いきなり何を!? 道井さん大丈夫!?」
 そばにいた主任が涼子と女性の間に入った。予想外な展開だったのだろう、彼は血相を変えている。だが涼子には、河野と呼ばれた女性の言葉で見当がついていた。
「この人、私の婚約者を奪おうとしたんです!!」
「っ!」
 河野に指を差されながら浴びせられたセリフが、涼子の胸に突き刺さる。
「え、どういうこと、道井さん?」
 主任の声色が変わった。周囲の人たちが立ち止まり、こちらを振り向いている。
 ここで涼子が押し黙っても場は収まらない。ましてや嘘など吐いたら河野の怒りは増して、さらに収拾がつかなくなる。
「……この方のおっしゃる通り、です」
 涼子は震える声で答えた。
 ──奪うつもりなど微塵もなかったけれど。
 いまそれを口に出しても、言い訳にしか聞こえないのだろう。
 一週間前、涼子は恋人にフラれた。彼には本命の婚約者がおり、涼子は彼の浮気相手に過ぎなかったと告げられたのだ。もちろんそんなこと、涼子はまったく知らなかったし、気づかなかった。
 君といると安らぐだとか、ずっとそばにいてほしいだとか、ささやかれた数々の甘い言葉をすべて鵜呑みにした涼子が悪かったらしい。彼が涼子に本気ではないことは態度を見ればわかるだろうと、暴言まで吐かれた。
(この女性『河野さん』が彼の本命の婚約者。私と浮気していたことがバレて……収まりのつかなかった彼女が私の会社に乗りこんできた。……そういうこと?)
 彼女にバレたから別れを切り出されたのか、気づかなければ涼子との関係を続けていたのかはわからない。
 涼子は手のひらで、じんじんと痛む左頬を押さえた。
 立ち止まっていた社員たちが目配せをしている。妙な雰囲気を嗅ぎつけた人たちも、わらわらと集まってきた。
 彼らを一瞥した河野は、ふんと鼻を鳴らして再び涼子を見た。
「でも、おあいにく様。もうあなたの入りこむ隙なんてどこにもないから。先週、彼にこっぴどくフラれたんでしょ? あなたのおかげで私たち、出会った頃のように絆が深まったの。でもどうしても、こうして直接釘を刺しておかないと気が済まなくて……!」
 キッと睨みつけられた涼子の体が硬直する。
「もう二度と吉岡(よしおか)さんに近づかないで! 彼がここに営業に来ているらしいけど、話しかけるのもやめてよね!」
 河野の金切り声がフロア中に響き渡った。
 彼女の言う通り、彼──吉岡は涼子が勤める会社に営業として通い、涼子と出会ったのだ。
 その後、涼子は何度も頭を下げ、主任が間に入って、どうにか河野に帰ってもらう。
「道井さん、すまない。吉岡さん絡みで道井さんに仕事の話があると言われて、確認もしないで通してしまった」
「いえ、こちらこそご迷惑をおかけして、申しわけありませんでした。……すみません」
 主任が申し訳なさそうに言えば言うほど、涼子は羞恥でどうにかなってしまいそうだった。吐き気まで催してくる。
 彼にフラれてからの一週間、食欲も気力も湧かず、ただひたすら仕事に集中していた。だが今日こんなことになり、仕事に集中することすら許されなくなった涼子は、それまで保っていたギリギリの気持ちがぷつんと切れたのを感じた。
 上司や同僚たちの好奇に満ちた軽蔑のまなざしが痛い。針の筵のような状況の中でどうにか仕事を終わらせ、逃げるように会社を出た。
 身も心も疲れ切った涼子は、衝動的に八王子(はちおうじ)の自宅とは反対方面の電車に乗っていた。
 目的は、都内の中目黒(なかめぐろ)駅近くにある「サロン・ド・テ・ナントカ」に行くこと。つらい気持ちの中、唯一思い出された隠れ家的カフェと言われている場所だ。「ナントカ」の部分は覚えていない。SNSで見たはずなのだが、いいねもブックマークもしていなかった。それ以上の情報をスマホで探す気力はなく、おぼろげな記憶だけが頼りである。
「……無駄かもしれないけど」
 電車のドア際に立つ涼子は、すでに暗い窓の外を見つめて嘆息した。
 涼子はそのカフェが見つからなかったとしても、別にいいと思った。とにかく自分を知っている人がいない場所に逃げたい。逃げて、違うことを考えたかった。涼子の頭を占領するあの男のことが一瞬でも消えてくれれば、それでいい。職場と自宅から遠く離れることができれば、それで──

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