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香水嫌いな王子様の専属調香師に選ばれまして?

  • 作家八朔きうい
  • イラストにそぶた
  • 販売日2019/03/22
  • 販売価格400円

「……俺のこと理解するのも、仕事なんでしょ」「そっ、そうですけど……っ」「じゃ、よく味わっといて」調香師・ルナが国王から任命されたのは香水嫌いな第二王子・ソレイユの香水を作ること──!? 最悪な出会いに最悪な課題。二人の相性も最悪かと思われたが、ある事件をきっかけにルナとソレイユは距離を縮め始める。いくらお互いをわかりあったとしても、香水が完成してしまえばソレイユの調香師ではなくなる。そんな事実から目をそらそうとするルナだったが、ソレイユに結婚の話が持ち上がり……。どこか影のある年下王子×香水オタクな調香師の身分違いの恋は成立するのか?

プロローグ
 彼は香水が嫌いだ。
 己の生き汚さを、匂いという動物的なそれで、うまいこと覆い隠して見えなくする人間たちのことが、嫌で嫌でたまらない。
「ソレイユ様、国王様がお呼びです」
 しかし、彼が暮らすイヴェール王家は、あろうことか『最もかぐわしい城』と呼ばれている。どこもかしこも、あれそれのなにがしという匂いが四六時中漂っている始末。
 こんなものに人生を狂わされてたまるかと、苛立ちながら暮らす日々。
「来たか、ソレイユ」
「呼ばれましたので」
 彼の父であり、現国王のイヴェール十三世はとかく香水に目がない。
 各国のめぼしい香水を集めるだけに飽きたらず、商人の支援や流通ルートの確保はもちろん、有望な調香師への投資も惜しまなかった。
 結果、香水産業が非常に盛り上がり、国中あちこちに専門店が並んだ。誰も彼もがお気に入りの香りの話をしていたし、こと王宮ともなれば、男も女もこぞって贔屓の香りをまき散らすばかり。
(今日も酷ぇニオイ)
 とにかく住みにくい国だった。
「お前いくつになった?」
「……十七ですが」
「そうか。ではそろそろ、自分の香りを持つべきだろう」
 げんなりする。父親に呼びつけられた時点で嫌な予感はしていたが、言葉にされるといよいよ鳥肌ものだった。
 国王も兄王子も、オリジナルの香りを持っていた。名のある調香師を呼びつけて、自身を象徴するらしい香水を作らせるのだ。
「……喜んで」
 無論、第二王子の分際で、何を言えるわけでもなく。
「うむ。ではルナ、頼んだぞ」
 そうして差し出されたのは、ひとりの小柄な女だった。
「父上……いえ国王様。これはどういう」
「お初にお目にかかります、ソレイユ王子」
 女は戸惑うソレイユをよそに、膝をつきこうべを垂れる。
 髪が揺れ、スカートの裾がはためいて、そうして──掴まれた。
(……なんだ、この)
「ルナ・プランタンと申します」
 彼女は深々とお辞儀をしただけだ。慇懃に挨拶をしただけ。王族を前にしたら当然の態度。これまで幾度と無く受け流してきた。
 それなのに、ただそれだけでもう、目が、指先が、もう言うことを聞いてくれなくなった。
「あなたの調香師です」
(なんだこの、いい匂い)
一 ソレイユ1
 イヴェール家の第二王子と言えば、見目麗しく学芸に秀で、剣の腕も立てばダンスも巧み、国中の女性たちが夢中になる存在だった。
 街を騒がす吟遊詩人は、彼を森の朝露になぞらえたし、西方から訪れた彫刻家は、彼の顔をした天使像を彫り上げた。貴族の娘たちは彼と踊りたいが一心で、舞踏会に参加する。
 無論それは、彼が『第二王子』としての仮面を被った場合の話。
「俺、香水ってすっげぇキライなんだよね」
 王の前から立ち去って、ルナ・プランタンを専用の調香室に案内し、二人きりとなった今、仮面は装着されていなかった。
「この国はおかしいよ。女も男もぷんぷん臭う」
 ソレイユ・イヴェール。十七歳。
 外見は、透明で儚げな真冬の太陽のごとく。
 内面は、順調に屈折し、歪み、捻くれていた。
「香りで個性を出そうとするなんて、獣のやることだよ。俺は人間だから、そういうのは要らない」
 そうして大仰に足を組み直し、深くため息をついてみせた。
 国王との謁見時には、およそ窺わせなかった一面を、これでもかというくらいに開放する。
「……それは」
 そんな彼の様子を前に、彼女はあてがわれた椅子に座ることも出来ず、目も口もぽっかり開き、硬直していた。
「私はご不要ということですか」
 ただそう問いかけた。
 瞳を陰らせ、声は掠れ、肩など僅かに震えている。
 無理もない。配属の数十分後に、解雇を命じられたようなものなのだ。
「そんな顔しないでよ」
 ソレイユは再びため息をついてみせる。
「俺が悪いヤツみたいでしょ」

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