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恋甘キッチン~溺愛社長の一途な独占欲~

  • 作家柊あまる
  • イラスト蜂不二子
  • 販売日2018/10/19
  • 販売価格500円

精一杯努力したけれど、身体の弱かった里歩は勤めていた会社を退職に追い込まれてしまう。家にこもりがちだったある日、母の友人宅で食事を作る仕事を勧められる。料理は自分の数少ない取り柄。はじめは戸惑うものの、自分が誰かの役に立てることに喜びを感じる。ある時、母の友人から甥の所でも腕をふるって欲しいと提案され、引き受けた里歩。そうして、青年実業家・透真のもとで料理を作るように。しかし頑張りすぎた里歩は眩暈を起こし、彼の腕の中で介抱されてしまう。その時彼への想いを自覚した里歩。でも自分は不釣り合いだと気持ちを閉じ込めようとする。しかし透真もすでに里歩なしではいられず、彼女を気遣いつつ距離を縮めはじめ──

(どうしよう……私、とうとう無職になってしまった!)
 私こと馬渕(まぶち)里歩(りほ)は、正午を過ぎたばかりのまだ明るい街中を、おぼつかない足取りで歩いていた。
 先月末、勤め先の上司から退職勧奨を受けたのだ。
 就職先はいつ潰れてもおかしくないような零細企業。人手は常に足りず、事務職として採用されたものの、職種に関係なく全員が営業にも回るよう指示されていた。
 でも私は、内気な性格と生まれつきの虚弱さが災いし、入社してから一件も契約を取れていなかったのだ。直属の上司はギリギリまで庇ってくれたのだが、社長はわざわざ私のところまで来てこう言った。
「来月までに契約が取れなかったら、辞めてもらうよ」
 生まれつき身体が弱く、成人してからも、疲労やストレスですぐに身体を壊してしまう虚弱体質。普段はかなり気をつけて生活しているのだが、この一ヶ月は首がかかっているのもあり、死に物狂いで頑張った。
 精神的にも体力的にもキツい外回りに毎日出かけ、睡眠時間を削りながら商品知識を頭に叩き込む。そうして取引先にも新商品の売り込みを積極的に行った。でも、そう簡単に上手くはいかない。
 なんとか努力したものの、契約は一つも取れず、疲労とストレスで体調はどんどん悪くなっていった。
 青ざめた顔で客先へ行っても、契約どころかこちらの体調を心配され、「早く帰りなさい」と言われてしまう始末。周りにもすっかり役立たずの烙印を押され、結局最後は自分から辞めると言わざるを得なかった。
 そして今日、退職の手続きと片付けをすべて済ませ、会社を後にしたのだ。その瞬間から、私は正真正銘の無職になった。
(あんなに苦労して就職したのに)
 私は駅までの道を、肩を落としながら歩いた。
 就職活動も大変だったのだ。ストレスに弱く、すぐに体調を崩してしまうからなかなか予定通りにいかない。内向きで人見知りな性格も、就活では不利に働いた。
 だから、ようやく採用通知を貰えた時は、本当に嬉しかった。それなのに、結局一年も保たなかったのだ。
(悔しい)
 私は溢れそうになる涙を誤魔化すように鼻をすすり、上を向いた。
 小さな頃から友だちの輪にはなかなか入れず、たまに入れてもみんなの後をついていくことは出来なかった。同じ年の子たちより身体が小さくて体力がなく、走ってもすぐに息が切れてしまう。そのせいで、よく置いてけぼりにされた。
(また、ついていけなかった)
 せめて私に人並みの体力があったら……。
 生まれつきの体質で、どうにもならないことだとわかっていても、つい考えてしまう。
 ──身体さえ丈夫だったら、これまでとは全く違う人生が送れたかもしれないのに、と。
(これからどうしたらいいんだろう)
 仕事がなきゃ生きていけない。まだ実家にいて両親も揃っているからいいけれど、その先はどうしたらいいのだろう?
 二十三歳の今ですらこの調子なのに、これから体質が改善するとは思えない。
 考えれば考えるほど暗い未来しか浮かばず、私は涙で滲む視界の中、重い足取りで家路を辿った。

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