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国王陛下の寵愛蜜戯~獰猛な独占欲~

  • 作家日野さつき
  • イラストルシヴィオ
  • 販売日2019/7/10
  • 販売価格700円

美しい髪を保つことに誇りを持つ国、レオラ王国。そこに身分を隠した良家の子女たちが集うサロンがある。ナディアは伯爵家の息女ながらそのサロンを運営し、髪の手入れの手ほどきをしていた。客人のひとり長身で美しいミランダのどこか不思議な魅力に惹きつけられるナディア。「親しくなりたい」ミランダからの申し出に喜びで満ちるのだが、ナディアはその腕のなかに閉じ込められて──ふたりの周囲に降りかかる事件、ナディアに課せられる使命、そして〝ミランダ〟の正体とは──謎と秘密を解いていくうちにナディアは情熱的に愛される喜びを教え込まれていき……


「お嬢さま、お客さま方がお待ちになっておられますが」
 背後から声がかかり、ナディアは顔を上げた。
「もう? 今日はなんだかはやいわね」
 窓から見える中庭の日時計を確認するとまだ昼前で、サロンを開く時刻にはなっていなかった。
「みなさま少々おはやいご到着です。馬車止めが満杯です」
 背のびするまでもなく、馬車がいくつか邸内に停まっているのがうかがえた。
 よく磨かれた馬車のなか、退屈にあくびをする客人たちの顔が目に浮かぶようだった。乗せていた客人をサロンで降ろすと、馬車は一度立ち去る。そして夕刻の迎えまで戻ってこない。
 ナディアは手にしていた髪飾りを箱に戻した。
「よろしいのですか?」
 そう尋ねつつ、執事のゴードンの足は玄関ホールに向かおうとしている。
「お待たせするのも失礼だわ、開けましょう」
「かしこまりました」
 ゴードンが扉を開きに向かう足音を聞きながら、ナディアは手元の箱を片づけた。大振りの木箱に、たくさんの小箱が収納されていく。その中身はすべて髪飾りだ。
 薄い壁の向こうから、ゴードンのよくとおる声が聞こえる。
「お待たせいたしました、どうぞこちらへ!」
 武器商人から執事に転身した彼は、ナディアの父の古い友人だ。父と一緒のときには砕けた表情を見せるものの、ナディアの前ではしかつめらしい執事の表情を崩さずにいる。
 木箱に覆いを被せ、ナディアもまた玄関へと足を急がせた。
 いつも昼過ぎには、サロンの扉を開け放つことになっていた。
 扉が開いてしばらくすると、三々五々(さんさんごご)庭木に集まる小鳥たちのように、客人たちが顔をのぞかせる。それがサロンを開く日のならいだが、今日はすでに四台の馬車が到着して待ち構えていた。
 少しはやいが、すでに馬車が現れていてはしかたがない。
 恭しいゴードンの礼に迎えられ、客人たちはサロン──アルカンタス家へ足を踏み入れている。
「ナディアさん、こんにちは!」
 現れたのは身なりも品もいい、どの顔も良家の子女、あるいは家業が明るい商家の娘だとうかがえる。みな笑顔であり、おつきの侍女たちの顔ぶれも楽しげで、ナディアも自然に笑顔になっていった。
「こんにちは。みなさん今日は到着がおはやかったですが、道が空いていましたか?」
 サロンは立地がいいとはいい難い。王都より離れており、昼前に現れたなら、彼女たちはかなり朝はやくに出立しているはずだ。
「ナディアさんがそろそろ髪飾りの入るころだ、っておっしゃってたから」
 口元に手を当てる。
 確かに髪飾りを手配し、無事届けられている。しかしそのことについて、彼女たちに口を滑らせた覚えはなかった。
 いつ話しただろうか。そう記憶を探るナディアの前、客人たちはみなにこにこ顔である。
「確証はないけど、もし髪飾りが入るなら、いちはやく見たくなって……それでみんなでしめし合わせてきたんです」
 玄関ホールを埋めた若い女性たちは、おたがいの顔にうなずき合っている。
「それでは、お茶の支度からさせていただきましょう。みなさまどうぞこちらへ。茶葉の新しいものがございますので、そちらの香りからお試しいただきますようお願いいたします」
 ゴードンの声に、勝手知ったる様子で彼女たちは玄関ホールから喫茶室へと向かっていく。
 サロンで顔見知りになったという彼女たちは、全員が着飾ることを楽しんでいる。今年の流行である花柄やそれをあしらった青い生地のドレス、かかとの低い靴を履き、見事な黄金の髪を背に流して現れる面々だ。
 案内に先頭を進むゴードンもまた、ひとくくりにまとめた髪を背で揺らしている。
 レオラ王国では老若男女問わず、誰もが髪を長くのばす。
 正装のときに男女それぞれ髪を結い上げる作法があり、そのためレオラ王国ではちいさいころから髪をのばし続ける習わしがあった。
 ナディアのサロンは、その髪の手入れの手ほどきをする。
 様々な香油を用いた髪の手入れ方法や、編みこみ方、艶が増すというハーブを使ったお茶なども出していた。
 美しい髪を維持し、正式な場で披露するのは、身分の高い面々にとってとくに必須の身だしなみだった。

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