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身がわり王女の偽りロマンス

  • 作家北條三日月
  • イラスト龍胡伯
  • 販売日2019/05/10
  • 販売価格700円

ラスヴィニア国の王女クレアと姉妹同然に育てられたユリア。いつか、国王家族に育ててもらった恩返しがしたいと思っていた。そんな時、残虐で冷酷非道と恐れられている隣国アトランティーダの王より、王女との婚姻の申し出が。国の平和ため、この婚姻は断れない……。大切な国王のため、王女のため、ユリアは、自ら身代わりとなり“王女クレア”として嫁ぐことを申し出る。ところが、アトランティーダの王カインは、噂とは全く違っていた。「君だけを愛すると誓うよ」──政略結婚のはずなのに、身も心も隅々まで愛され、彼に惹かれていくユリア。次第に、王を騙していることが心苦しくなって──?

 空が泣き叫んでいるかのようだった。
 凄まじい雷鳴。しかし、それすらも掻き消してしまうほどの豪雨。
 幼い私は目を瞑り、両手で耳を塞いで、聖餐台(せいさんだい)の影でガタガタと震えていた。
 人里離れた森の、更に奥深く──。人々から忘れられてしまった、廃教会。
 長く放置されていたためか、外も内もボロボロだった。聖堂の壁には、無数のひび割れが。その一部は、既に崩れていた。ステンドグラスは一枚残らず割れ、優美な曲線を描く天井に施された宗教画も、汚れてカビだらけで見るも無残。入り口の木製の分厚いドアは腐って外れかけている。それでも──なぜだろう? 侵しがたい崇高で清らかな空気が、そこにはあった。
 祭壇には、白い大きな翼を持つ美しい女神像。
 すべてが朽ち果てようとしている中、それだけが何故か目を瞠(みはる)るほど──不自然なほど美しくて、幼心に、女神さまはいるのだと思った。
「……め……めがみさま。めがみさま……」
 歯が噛み合わない。それでも必死に、覚えたての神さまの名を唱える。
「めがみさま……ユーフェミアさま……。おねがい、します……」
 助けてください。いい子にしますから。助けて。助けて。
 女神像に向かって祈るようになって──もう何日経ったろう?
 お腹が空いていた。喉が渇いていた。疲れてもいたし、ひどく眠たかった。しかし、シーツの一枚もなく、ひどく寒いこの場所では、ろくに眠ることすらできなかった。礼拝者のための朽ちかけた固い木の椅子で仮眠をするのがやっと。そのせいで、身体のあちこちが痛かった。
 家に戻りたかった。お父さまに会いたかった。
 美味しいパンを食べたかった。温かくて甘い紅茶が飲みたかった。マットレスの上で、毛布にくるまってぐっすりと眠りたかった。
 だけど、今はそれよりも──この古い廃教会を吹き飛ばしてしまいそうなひどい嵐を、なんとかしてほしかった。ここが壊れてしまったら、どうしよう!?
「めがみさま。ユーフェミアさま。どうか……!」
 どれだけ寒くても、身体が痛くても、お腹が空いても、もう絶対に泣きごとなんて言いませんから。
 嵐が止んだら、もっとお掃除を頑張りますから。ここを綺麗にしますから。
 そうして毎日、祈りを捧げますから。
 良い子にしていますから。
 どうか、どうか、女神さま。
「たすけてっ……!」
 身を小さくして叫んだ──その時だった。
 激しい雨音に重なるように、ドドドドッと大きな音がする。ビクッと身を震わせた瞬間、馬のいななきのようなものが聞こえる。
 ハッとして、目を開く。反射的に扉のほうを見ようと身動きして──しかしその刹那、窓の外が真昼のように輝き、地を揺らす轟音がそれに続く。
「きゃあぁっ!」
「ッ……!?」
 思わず、悲鳴を上げる。すぐさま頭を抱え込み、身を小さくする。
 ほぼ同時に、扉のほうでガシャンと何やら金属がぶつかる音がして、雨の音がより一層近くなる。

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