夢中文庫

不埒な乙女の恋わずらい

  • 作家本郷アキ
  • イラスト角砂糖
  • 販売日2017/12/19
  • 販売価格300円

上司から一カ月間人間界へ行って人間を勉強してこいと命じられてしまったサキュバス(女淫魔)のアリア。やむなく訪れた人間界で出会ったのはグレンという名の美青年。彼から諸々いただいて一ヶ月をやり過ごそうと思うのに、肝心のグレンはまったくアリアに興味を示さない。おかしい! アリアはグレンの傍で暮らし、人間を観察するに併せてグレンを誘惑しようと奮闘する。だが、やはりグレンは見向きもしてくれない。やがて怒りや疑問は消え、切なさだけが胸を占めるようになる。一方、悪魔は人間から精気を得ないと消滅してしまう。他の男で、そう思うが、欲しいのグレンだけだと痛感。アリアは自分がグレンを愛していることに気づくが――

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プロローグ
 人々が皆、ブルリと身を震わせながら手を擦り合わせる季節。バサリと真っ黒い羽を大きく羽ばたかせながら、アリアはキラキラと輝く街並みを真下に見つめる。
「さっ、ちゃっちゃと美味しそうな人決めないとなぁ……でもひと月もココにいるの……面倒」
 風が冷たく粉雪が舞う中、人間味のない真っ白な肌に、胸元と下肢だけを黒く柔らかい毛並みの布地で覆った姿は異常だ。億劫そうに眉を寄せたアリアは標高一七〇〇メートルの山々と並ぶ高さから、豆粒なみに小さく見えるカラフルな三角屋根の街並みを見下ろす。ビュンっと羽を広げ風に乗ると、空気を切るように地上を目指した。
 真っ直ぐで艶のある黒髪は肩ほどまであり、頭には人間にはあり得ない硬い角が二本生えている。風が吹くたびに髪が靡くが、角は微動だにしない。胸元と腰回りの触り心地のよさそうな真っ黒の毛から、角と同じ硬質な尾がピンと上向きに立っていた。
 長い睫毛の奥、パッチリと開かれた目が何かを探すように、キョロキョロと動き、プルンと熟れたイチゴのように真っ赤な唇から濡れた舌先が覗いた。ペロリと唇を舐めると、寒そうに肩を縮こまらせて歩く男性を一人一人視界に入れていく。
「違う……違う……はぁ~あんまりいいオトコいないし」
 トンと軽い音を立てて、アリアは黄色い三角屋根の天辺に降り立った。
 本当は人間界=ミズガルズに来るのなんて面倒だった。ただ、食事をするなら妖魔界=ヘルヘイムにいて、人間たちに淫らな夢を見せればいいだけのこと。
 なのに──。
「なによっ! もう! オーガのバカヤロウ!!」
 アリアは思わず三角屋根からミズガルズを挟むように下にある、故郷のヘルヘイムに向かって声を荒げる。瞬間、ビュッと強い風が吹きアリアは三角屋根の上で体勢を崩してしまった。
「うっわっ! きゃぁっ!」
 空を飛ぶことなんてまったく苦ではないのに、どうしてこういう時に限って羽が役に立たないのか。アリアの身体は真っ逆さまに落ちていく。
(さすがに、地面にあたったら……ちょっと痛いかも)
 地面に叩きつけられる直前、柔らかく温かい何かがアリアを受け止めた。
「ぐ……っ、だ……い、じょうぶか?」
 無意識に身体をほんの少し浮かせていたのだろう。衝撃はさほどなかった。アリアの身体はドサリと男性の上に落ちる。男性はしっかりとアリアの身体を抱きしめて、真っ白い雪がうっすらと積もった石畳みに倒れていた。
「あ……しまった。人がいたんだ……」
「人がいた……じゃなくて、早く降りてくれないか……痛い」
 倒れこむ男性の胸に身体を預け倒れこんでいると、苦しそうな声で背中をポンポンと叩かれる。一応、地面に叩きつけられる直前に身体を浮かせていたから、そう重いはずはないけどなぁと顔を上げると、ブロンドに輝く髪が目に入った。
「あなた……綺麗な髪色ね」
 結構タイプかも、と溢(こぼ)すとアリアの身体を抱えたまま、いたたと額を押さえた男性が身体を起こす。目が開かれ、男性は腹部に腰を下ろしたままのアリアを見つめた。
(う、わぁ~~うわぁ!! アクアマリンの瞳なんて……初めて見た)
 人間の年齢はよくわからないが、子どもでないことは確かだろう。スッと真っ直ぐに伸びた鼻筋に、薄く開かれた瞼から覗くアクアマリンの瞳、耳を隠す程度の長さを持ったブロンドの髪は吹雪く風のせいで無造作に乱れてはいるが、それでも十分魅力的な容姿をしている。きっとミズガルズでも相当モテるに違いないと、アリアが確信するほどだ。
 思わず男性の顔を凝視し、アリアはうんうんと頷きながらペタリペタリと身体に触れた。コートの下にある上腕二頭筋、腹筋をギュッギュと掴む。しっかりと硬い筋肉に覆われた身体だ。きっと精力も強いだろう。アリアは赤い唇を舌舐めずりしながら、小さくコクリと喉を鳴らす。グゥっとお腹が鳴った。
「うん……あなたに決めた」

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