夢中文庫

秘め事はあなたの腕の中

  • 作家本郷アキ
  • イラスト
  • 販売日2019/04/05
  • 販売価格500円

部屋がおかしい――綾音は自分の部屋に異変を感じ、無料の弁護士相談に行く。そのビルで出会った新見智とぶつかり、食事に誘われる。この人、弁護士よね、そんな気持ちから応じるが、新見の容姿や話し方、所作に惹かれてしまう。怖くて家に帰りたくないと述べると、新見はホテルを予約してくれた。ほっとした綾音は食事の席で眠ってしまう。そして目が覚めたらホテルの部屋の前。いけないと思いながらも恐怖と安堵で疲れ果てた心と体は新見を求める。「一人でいたくないんです」そう訴える綾音に、新見は困惑しながらも腕を伸ばし抱きしめ、そして唇にキスを――『クールで口下手な専務の溺愛プロポーズ』の新見と綾音の溺愛ラブストーリー。

プロローグ
「智(さとし)、そろそろ秘書なんてお遊びはやめて、結婚して家を継ぎなさい。何のための弁護士資格だ」
 ついに来たか──。
 そろそろ言われるとは思っていた。
 父親からの言葉に、新見(にいみ)智は膝の上に置いた手を強く握った。
 将来父の跡を継ぐべく大学時代に現役で司法試験合格を果たしたが、紆余曲折あり現在は証券会社で秘書をしている。
 父が興した新見総合法律事務所は、国際法務、企業法務で実績のある法律事務所と統合をし、パートナー弁護士数十人、アソシエイトを含めれば弁護士数五百名を超える超大手の法律事務所となった。
 シニアパートナーである父の年齢は、まだ五十代半ばだ。何事もなければあと十年はその座にいられるだろう。
 新見も三十という年齢に差しかかった今、決断を迫られていた。
「家を継ぐことは同意しますし、直属の上司には以前から伝えてありますから心配無用です。しかし、結婚は俺のタイミングに任せていただけるのでは?」
 新見が言うと、応接室のデスクの上に身上書が広げて置かれた。
 こういう時の行動が早過ぎて、うんざりとため息が漏れる。業界内でやり手だと評判の父のことは尊敬している。けれど──。
「私の知り合いのお嬢さんだ。以前にお前が好きだの何だの言っていた娘がいたろう? まだ諦めがつかないようだから、こちらで用意しておいた」
 すでに見合いの段取りまで済んでいるとは夢にも思わなかった。まずは人の話を聞けよ──それがあんたの仕事だろうと怒鳴りたくなる。
「彼女とのことはもうとっくに終わったことです。それに、こんな紙切れ一枚で生活を共にする相手を選びたくはありません」
 新見は身上書を閉じて父のデスクに戻すと、応接室を後にした。
 今頃、背後でやれやれと肩をすくめている父の姿まで想像できて、苛立ち紛れに渾身の力を込めてドアを閉める。
 父としても、本気で新見が見合い結婚をするとは思っていないだろう。ただ、そろそろ時期だぞとプレッシャーをかけているに過ぎない。
 たしかに新見は、同じ会社で働く大学時代からの友人に片想いをしていた。
 いつかは家を継ぐと考えながらも、就職先を法律事務所にしなかったのは、家族のために身を粉にして働いている彼女のことが心配で堪らなかったからだ。
 恋人になるのも時間の問題だと思っていたのに、彼女はあっという間に上司と恋に落ちもう人妻だ。
 共に三十歳になり、心がざわつくような彼女への恋心はすっかり鳴りを潜めた。
 上司とのやりとりで、仕事中に充てられ過ぎてイラつくことはあれど、すでに立ち位置は友人だ。
 新見総合法律事務所を立ち上げた当初、数億円の借金を抱えて父が建てたこのビルは、都心一等地に事務所を抱える今となっても残っている。こちらに所属する弁護士は数人だが、初心を忘れないようにと父は頻繁にこの場所を訪れていた。新見にとっても、幼い頃の遊び場であったこのビルは思い出深いものがある。
 しかし、今日ばかりはこの古いビルのエレベーターの遅さに苛立ちが募る。
 カチカチと何度もボタンを押したところで、早く辿り着くはずもない。
 古びた音を立ててエレベーターが開くと、苛立った勢いのまま歩みを進めた。そして、目の前に人がいたことにも気づかずぶつかってしまった。
 自分が人よりも頭一つ分大きい自覚はある。相手が細身の女性であれば、怪我をさせてしまうほどの体格の良さであることも。
「っ……すみません」
 慌てて女性の腕を掴んで、間一髪のところで転倒は避けられた。安堵したのもつかの間、女性がびくりと大仰に肩を震わせて後ずさる。
 突然腕を掴まれたら驚きもするかと、もう一度謝り手を離した。
「あ、いえ……こちらこそ」
 顔を上げた女性から目が離せなかった。
 息をするのも瞬きをするのも忘れ、女性をまじまじと見つめてしまう。
 どこかで見た覚えがあるような気がしたが、そんなことはどうでもよくなるほどに、女性は愛らしい顔立ちをしていた。目はくりっと大きく、まつ毛の量は多い。流行りのエクステ等で増やしているのかもしれないが、化粧は薄く清純そうな印象だった。
 鼻はやや小ぶりなものの、顔全体のバランスが非常に整っている。美しい顔の黄金比──その言葉を一目見た瞬間、新見が思い出すほどに。
 触り心地の良さそうな艶のある髪は、顎あたりで短く揃えられていた。意図せずベッドの中で彼女の髪を梳いている自分を想像してしまい、動揺が胸に広がった。
「もしよかったら、食事でも行かないか?」
 気づけば、彼女を引き止めるような言葉を発していた。
(俺は……何を言っているんだ……)

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