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クールに決めた大人のカレは、実はかなり嫉妬深くて執着系

  • 作家本郷アキ
  • イラスト
  • 販売日2019/6/18
  • 販売価格500円

恋に「落ちる」とはどういうことだろう――恋をしたことがないあずさ。だがインターンとして入った有名美容院、そこにやってきた尚を見た瞬間、時が止まった。店長の友人で名前が「尚」としかわからない三十半ばほどの会ったばかりの男に心を奪われた。止まらない想いを告白したあずさだったが、尚にはまったく相手にしてもらえない。それでも食い下がると、「キスをしてその気にさせてくれたら」と言われてしまう。たどたどしいキスをするあずさに、大人のキスを返してくる尚。あずさのキスは尚を少しばかりその気にさせたのか、マンションの部屋に入れてくれて――三十六歳の穂高尚と十九歳の長尾あずさのアツアツな年の差ラブ

プロローグ
 今まで十九年生きてきて、恋をしたことがない。
 目の前の男性バーテンダーがシェイカーを振るのを、長尾(ながお)あずさはカウンター席からジッと目を細めて観察した。
 接客業らしく清潔感がある印象で、上品な顔立ちだ。捲り上げたシャツから真っ直ぐに線の入った腕の筋肉が見えて、その洗練された姿には惹かれるものがあった。
 けれど、彼のプライベートを知りたいかと言えば、それは否だ。
 恋に“落ちる”とはどういうことだろう。真っ逆さまに落ちていくような感覚なのだろうか。
「恋がしたい……」
 ボソリと呟いて、グレープフルーツジュースを飲み干した。百パーセントらしいが少し薄めてほしいほど酸味が強く、思わず肉厚の唇を尖らせた。
「そんなんで恋がしたいとか笑えんだけど」
 幼馴染みであり三歳年上の──深沢(ふかざわ)和則(かずのり)が、気怠そうにテーブルに肘をつきながら言った。
 あずさと彼の付きあいはもう十年を超える。肩が触れあうほどに近く、大人の雰囲気が漂う店に二人で来ていても、彼はあずさにとって幼馴染みでしかない。
 顔は美形の類に入るのだろうが、幼い頃から当たり前のように近くにいたため、見慣れすぎてよくわからない。
 しかし、会社の同僚に告白されたという話は頻繁に聞いていたから、きっとモテるのだろう。
 彼曰く──恋愛とは理性を失うものらしい。
(なんだ、理性を失うって……)
 感情的になるということだろうか。
 彼の歴代の彼女とも仲はよかったけれど、和則に対して胸がときめくとか、胸が疼くような恋心を持ったことは一度もない。そもそも、恋心がわからない。
 男性と一緒にいて“楽しい”と思うことはある。今だってそうだ。和則と一緒にいるのは楽しい。
 けれど、多分これは恋ではないのだろう。
 毎日顔を思い出して、会えない時は寂しくて、この人にならすべてを晒してもかまわないと、そんな感情を持つのだそうだ。和則との付きあいの中で感じたことのない感情だった。
 あずさは空になったロンググラスをテーブルに置き、深いため息をこぼした。
 和則が頼んでくれていたのか、空のグラスが下げられて新しいジュースが差しだされる。礼を言って口に含むと、こってりと甘い桃の味がした。先ほど顔をしかめたのを気づかれていたのだろう。
「別に彼氏が欲しいとかじゃなくてさ。和則の彼女みたいに恋をしてみたいって話。だって彼女は何もないってわかってても、和則とあたしが二人で会ってるのが嫌なんでしょ?」
 彼が今付きあっている恋人は、非常に嫉妬深く困るという話をしていた。あずさは、彼の今の恋人とは顔を合わせたことがない。
 幼馴染みで友人だと説明しても、絶対に違う、隠れて付きあっているに違いないと嫉妬心をぶつけてくるらしい。
 その話を聞いて、苛立つよりも羨望の思いが強かった。それほどに和則のことを好きでいられる彼女が羨ましかった。
「女ってすぐ感情的になるよなって話から、なんで恋がしたいになるんだよ」
「だって泣くほど嫌なんだよ? すごくない?」
 お願いだから会わないでと泣かれて、辟易しているのだと和則は言った。
「お前と会うなって言われても困るだろ。隣に住んでるんだから偶然顔を合わせることはあるって言ったら、一人暮らししろとか。電話には絶対に出るなとか」
 彼はうんざりした顔で言った。
 そもそもあずさから和則に連絡することは滅多にないから、彼女の嫉妬は本当に見当違いなのだ。家が隣とはいえ、社会人の和則とは生活する時間帯も違うし、偶然会うことも実は滅多にない。
「和則のこと好きなんだねぇ……いいなぁ」
 あずさには理解できない感情を持つ彼女が羨ましかった。
 理性を失ってしまうほどに、熱い恋に落ちてみたい。
「それより、来週からインターンで店に出るんだろ? 大丈夫かよ」
「めっちゃ楽しみ。期間長いから給料も一応出るし、あたしの夢だもん」
 あずさは美容系の短大に通う学生だ。一年の夏休みの間、インターンシップで都内にある有名美容院で働くことになっている。
 そこは、芸能人やモデル、会社社長などがよく来店すると言われている店で、そこから専属スタイリストへの道を開いていく人も少なくない。
「働くって大変だぞ~ま、愚痴ぐらいは聞いてやるから、いつでも連絡しろよ?」
 くしゃりと髪を撫でられて頭を軽く叩かれる。
 きっと和則の彼女はこういうのも嫌なんだろうなと想像はつくが、やはり嫉妬という感情を理解することはできなかった。
「ま、頑張りますよ」

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