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宮廷薬剤師の過保護な執愛~花開く幼馴染の煌めく祈り~(上)

  • 作家吹雪歌音
  • イラスト甘海老りこ
  • 販売日2020/1/10
  • 販売価格800円

宮廷でも評判のオートクチュールを扱うメゾン・アルバートル。先代の母のあとを継ぎ、クチュリエール(女性裁縫師)となったチャーリーはアトリエで多くのお針子を抱え、さまざまな顧客と向き合う毎日。そのメゾンを古くから贔屓にしてくれているブルーエ公爵家の子息・ジェラルドとは幼馴染。彼は士官学校に進んだが今は宮廷薬剤師となり、チャーリーの家に居候している。チャーリーの胸には彼への想いを閉じ込めた小瓶が──『貴族に深入りしては駄目よ』亡き母の言葉にとらわれながらも、ジェラルドに迫られ距離は縮まるばかりで……。その一方、メゾンではなにやら不穏な空気が流れはじめ……!?

どこかの国の言葉では、このガラス粒のことを“祈り”と呼ぶらしい。
 布地に咲き誇るモチーフが、その煌めく一粒一粒の祈りの答えならば、わたしの願いは粒子を繋ぐ糸が切れて地面に散らばっているだろう。
 決して花開くことはなく──
 馬車や車が行き交う大通りには、多くの洋服店が軒を連ねている。
 各店舗の陳列窓では、煌びやかな衣装を着たマネキンが人々の視線を誘っていた。
「停めてちょうだい」
 馬車の窓から、それらを流し見ていた貴婦人が御者に命じる。
 蹄と車輪の音が、ある店の前で止まった。
 御者にエスコートされ、つばの大きな帽子を被った貴婦人は、扉の向こうに足を踏み入れた。
「あら? ここはオートクチュール(高級仕立服)のメゾン(店)では、なかったかしら」
 洋服店の中を見回し、扇子を手にした貴婦人がつぶやいた。
 店内にはハンガーに掛けられた様々なデザインと豊富なサイズのドレスやスーツが、ずらりと並んでいる。
「これからはプレタポルテ(高級既製服)の時代ですよ」
 ドレスを物色する彼女に、オーナーの中年男性は得意げに答えた。
 オールバックの髪にネクタイを締めた中肉中背の姿は、いかにもやり手な印象である。貴婦人が手にしたドレスの襟首には“qualité(カリテ)”と店名が刺繍されたタグが縫いつけられていた。「このご時世に、いちから手作業なんて時代遅れですよ」オーナーはふんぞり返る。
「機械に任せれば質の高いドレスやスーツが大量に作れます。そのぶん価格も抑えられますし、手仕事服と同じくフルオーダーも可能ですよ」
 顧客を逃すまいと彼は畳みかけるも、ドレスは貴婦人の手からその群れへと戻された。
「その時代遅れを仕立てている組合に所属したままでいいの?」
「……特に入会資格は、ありませんからね。脱退資格もありません」
 一瞬、眉を顰(ひそ)めるが、オーナーは他人事のように両腕を上げる。
「でも、メゾン・アルバートルは今も続けているわよ。シャルロット・アルバートルのオートクチュールは宮廷内でも大評判よ」
 その言葉に彼の眉毛がピクっと吊りあがった。こびへつらっていたセールストークがわずかに綻びる。
「あそこは先代が死んで、今は、その娘が後を継いでいますが。あんな小娘、ブルーエ公爵家の援助がなければ、とっくに店を潰していますよ」
「もう! いつまでこのままなワケ!?」
 メゾン・アルバートルの試着室に女性のヒステリックな叫びが響き渡る。
 声の主は、本日ブライダル・ガウンの打ち合わせで来店していた貴族令嬢だ。
 本生地で仮縫いした物を試着し、サイズ調整のため長時間直立不動。
 白い身頃に閉じ込められていた彼女の我慢は限界に達したらしい。
「あんたも、さっきから何度同じ事ばっかりやってるのよ! 足が棒になってしまうわ!」
「も、もうしわけございませんっポリーナさまっ」

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