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四半世紀のキス

  • 作家いしいのりえ
  • イラストいしいのりえ
  • 販売日2013/2/22
  • 販売価格300円

幼いころから共に育った、淳子と蒼甫。どんな人と付き合っても長続きしないのは、美形で優しい蒼甫と比べてしまうから――。10代のころに交わした蒼甫とのファーストキスを忘れられずにオトナになった淳子。ほろ苦い過去の恋を現在進行形で抱きつづける淳子の恋の行方は……。

早朝の電車の窓に映った自分と目が合い、慌てて手をコートのポケットのなかに押し込んだ。

最近ずっとこんな調子だ。気がつくと、指で唇を触る癖がついてしまっている。ぷっくりとグロスをまとった唇を指先でぴたぴたと弾いて、数日前の、あの感触を思い返している。

相手の唇の感触、ざらりとした舌の感触、吸い付いた舌は熱くて、小一時間ほど前に飲んでいた芋焼酎の味が染みついていた。

――ひさしぶりのキスが酒の味なんて、色気もへったくれもない。

私は心のなかで舌打ちをした。

けれど、そんな残念なキスさえも、気がつけば何度も反芻して頭に刷り込ませている。

まるで、数年ぶりの男の唇をむさぼるように。

唇をなぞるのは、あの夜を思い返すヒントだ。私はそれを引き金に、蒼甫の唇や、回された腕の太さや胸の厚みを思い出す。

そしてその出来事は、もうとっくに捨てたと思っていた10代のころの淡い恋心を思い起こさせ、胸の奥を針で刺されたように、ちくりと痛む。

時の波に流されるようになんとなく生きてきた私にとって、蒼甫を想う気持ちだけはすこしだけ誇りだった。

10代のあのころ、蒼甫への思いに気付いたときには、誰よりも一所懸命だった。

幼いながらに、彼への思いを何よりも大事にしていたから。

あれから、10年。

あのころの思い出を宝物にしようと思っていたのに――。

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