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皇帝陛下は巫女のすべてを愛してる~優しい嘘に、永遠の加護を~

  • 作家彼方紗夜
  • イラスト龍胡伯
  • 販売日2019/11/8
  • 販売価格600円

神からのお告げ・託宣を重視する国、ラバノフ帝国。もとは巫女として神に仕えていたヴェロニカは託宣により皇帝アレクセイの妻となった。それから三年。ヴェロニカは皇后としてアレクセイを支え、結婚生活はとても甘く、アレクセイの優しさと愛情に柔らかく包まれ幸せに満たされる穏やかな毎日。──そう、たったひとつの『嘘』をついてしまったことを除いては……。大好きな夫にも言えない大きな秘密。そのことにヴェロニカは罪悪感を抱え、幸せの陰で密かに怯えてもいた。しかし、世継ぎを待ちわびる周囲がとうとう騒ぎ始めて……。蕩けるほど睦まじい皇帝夫妻の仲に危機が!?

一章 皇帝夫妻は今日も仲睦まじく
 朝、目が覚めるたびに、ヴェロニカは隣に眠るこのひとを好きだと思う。
 腰に巻きついた腕の硬さや、呼吸のたびに静かに上下する胸、ひんやりとした体温。アレクセイを形づくるそれらひとつひとつを、ヴェロニカは愛おしく眺める。
 翡翠をさらに白く薄めた色のガウンから覗く身体は硬くしなやかで、飽きもせずに見入ってしまう。喉元から鎖骨だとか、お腹から腰だとかに浮きあがる筋は、まるでそれ自体が意思を持つかのようにまっすぐな線で美しい。
 男のひとの──夫の、身体だ。
 その身体に抱きしめられて目が覚める朝が、ヴェロニカはいちばん幸せな時間だと思っている。
「おはよう、ニーカ」
 目覚めたアレクセイがほほえむと、胸がとくんと音を立てる。
 春の雪解けを思わせる笑みだと思う。空気も水もぬるくなり、雪解け水が川を流れて土地を潤す、そんな雰囲気だ。
 雪解けに人々も心を弾ませるように、ヴェロニカもアレクセイの笑みにつられて、口元がほころぶ。
「おはよう、アレク」
「今日も目を開けてまず始めに、ニーカの笑顔が見られた」
 アレクセイが片ひじを寝台につけ、手のひらに頭を乗せる。ビリジアンの澄んだ瞳に見つめられ、低くやわらかな声が胸に染みこんでくる。
 もしも声が目に見えるものだったら、アレクセイのそれは、すべてを包みこむような優しい輪郭を持っているのだろう。
 ……わたしは起きたらまず、アレクの寝顔を見るのよ。
 寝言でヴェロニカの名前がこぼれ、腰に巻きついた腕に力をこめられたときなど、なんとも言えない甘やかな気持ちが満ちる。
「アレクが笑ってくれるから、わたしも嬉しい」
「嬉しいことを言ってくれるな……」
 額に口づけられる。くすぐったさにむずかると、口づけは下におりた。
「ふふ、そろそろ朝食ですよ」
 唇を食むような口づけのあいまに言うと、腰に巻きついた腕に力がこもり、首筋の肌が吸いあげられる。
 顔をすり寄せられ、ヴェロニカの胸がまた、とくんと軽やかな音を立てる。
「朝食よりも、ニーカがいい。一日じゅう、こうしていたい」
 極上の肌触りのシーツが、アレクセイの身じろぎに合わせて波打つ。それからアレクセイはヴェロニカを抱いたまま、ごろりと仰向けになった。
 黄金色と臙脂(えんじ)色の対比が美しい天蓋(てんがい)を背に、ヴェロニカは夫の顔を見おろす。シーツも揃いの臙脂色で、アレクセイの濃いブラウンの髪が良く映えている。
 アレクセイの精悍な顔立ちは、ひとたび政務の場につけば圧倒的な威厳を放つ。骨っぽさを感じる輪郭も、ととのった鼻筋やきりりとした鋭い目元も、凜々(りり)しい。
 しかしヴェロニカをそのビリジアンの目に映す今は、普段の威厳が嘘のように柔和だ。
「皆さんが『陛下』をお待ちだと思うわ」
 やんわりとさとすと、その目がほんの少し心細げに揺れる。
「ニーカは?」
 ミルクティーの色をした長い髪を、アレクセイがひと房すくい取る。

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