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幼なじみエリート上司と一途で秘密な両想い

  • 作家花音莉亜
  • イラスト時瀬こん
  • 販売日2019/03/05
  • 販売価格600円

大手総合商社に勤める佳穂は、幼なじみで初恋の相手である隼人を忘れられないでいた。そうして恋人も作れずにいた佳穂の前に、隼人が上司として赴任してきて!? 緊張と戸惑いでいっぱいの佳穂だったが、隼人も佳穂を想いつづけていたことを知り、秘密の社内恋愛がスタート! しかし、同期の絵美が隼人の元カノだったことが判明。でも、なんだか様子がおかしくて……絵美の隼人に対する強い未練に、佳穂は否が応でも振り回されてしまう。そしてついに、佳穂に想いを寄せる同期の裕太も巻き込んだ大きな社内トラブルが勃発。このままでは、隼人との秘密の恋愛に危機が……。お互い一途に想いつづけて実らせた初恋を守りたいふたりは──

「ちょっと、佳穂(かほ)。この郵送物は、午前中に出してもらわないと困るじゃない」
 午後三時。同期の絵美(えみ)が、眉をしかめてやって来た。手には、“速達”の印が押された封筒を手にしている。
「ごめん。次からは、気をつけるから」
 彼女から封筒を受け取ると、絵美は足早に去っていく。どうやら、今日は絵美が郵送当番らしい。
 私たちが勤めるのは、大手総合商社。業界でもトップを争う老舗企業で、そこの事務をしていた。
 入社三年目の二十五歳。仕事にも慣れ、後輩もできて、絵美は特に張り切っている。
 他課との連絡も率先して行い、営業さんたちのサポートも完璧だ。見た目も“クールビューティー”という言葉がぴったりなほど、涼し気な顔立ちの美人な女性だった。
「佳穂先輩、私のせいで小畑(おばた)先輩に怒られてしまって、本当にすみません」
 隣の席の新人、田中(たなか)由紀(ゆき)ちゃんが、申し訳なさそうに弱々しい声でそう言ってきた。
「気にしなくていいって。これは、明日にするしかないわね。それでも大丈夫そう?」
 書類の追跡管理の関係上、発送する郵便物は、必ず記録をつけることになっている。
 記録簿を元に、郵送当番が郵便局に持っていくというルールがあり、突き返されたこの書類を、勝手に出すことはできなかった。
「大丈夫です。明日の朝一番に、郵送トレーに出しておきます」
 由紀ちゃんは封筒を受け取ると、自分の作業箱に入れている。そして、私を恐る恐る見た。
「私のせいだって、言ってくださって構いませんから。あれじゃあ、まるで佳穂先輩がミスしたみたいですもん」
 由紀ちゃんは、年齢の割に童顔だからか、ついお世話をしたくなる。今も、すっかり覇気をなくしたせいで、まるで子犬のように頼りなさそうな雰囲気を出していた。
 そんな彼女に、小さく笑みを向ける。
「大丈夫。そんなことを気にしなくていいから。だいたい、由紀ちゃんの教育担当は私だし、責任がないわけじゃないもの」
 と言うと、ようやく由紀ちゃんは笑顔を取り戻した。
「ありがとうございます。次からは、絶対に気をつけますから。それにしても、小畑先輩って、佳穂先輩にはきつく当たりません? まあ、私たち新人みんな小畑先輩は苦手ですけど」
「同期だからよ。絵美は、仕事熱心だから、怖く見えるだけかもしれないよ」
 なんてフォローをしながら、由紀ちゃんの意見には頷きたい部分もある。
 たしかに、絵美は仕事を張り切っている分、どこか空回りしているところもあり、それが後輩ウケを悪くしている。
 私もそれを心配しているけれど、絵美はプライドが高いところもあり、私が助言をしても素直に聞き入れてくれるか怪しい。
 だから、今日まで絵美にはなにも言えないでいるけれど、いつかは話したほうがいいのかな。
「怖いっていうより、ちょっとイジワルですよ。その点、佳穂先輩は仕事だけじゃなくて、恋愛相談も乗ってくれるし、とっても頼りにしています。これからも、アドバイスお願いしますね」
「あっ、ということは、例の好きだった人とうまくいったの?」
「はい。付き合うことになって。昨日、早くもお泊りしました」
 語尾にはハートマークがついていると思わされるくらい、声のトーンは上がり、頬を赤らめている。
 そんな彼女に、私は穏やかな笑みを向けた。
「よかったじゃない。また、のろけ話を聞かせてね」
「はい」
 由紀ちゃんは鼻歌を歌いながら、パソコンに目を移している。だけど私は、ため息が漏れそうになるのを寸前のところで呑み込んだ。
 こんなに頼りなく見えても、彼氏と甘い夜を過ごしているわけよね。
 由紀ちゃんは、私が年上ということもあり、仕事も恋愛も経験が自分より上だと思っているみたい。
 彼女に限らず、周りからはそれなりに恋愛経験が豊富に見られるから皮肉だ。メイク映えする顔と、落ち着いたキャラを演じられているのが理由だろうけれど、それは私にとって、自分で自分の首を絞める結果になっている。
 なぜなら、恋愛においては、まるで経験がないから。エッチどころか、キスだって未経験なのに。
 それを当たり前に口にできればいいのに、プライドが邪魔をするのか、恥ずかしいと思うからか、どうしても人に話せないでいた。
 それなのに、周りの恋愛相談には乗ってしまって、的確なアドバイスができているから不思議だ。
 人のことは客観視できるのに、自分のことになるとまるで素人。そんな自分が、最近はイヤになってくることがある。
 だけど、好きな人はできそうにない。だって私は、ずっと隼人(はやと)を想っているから。

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