
イラストルシヴィオ
ガルナ王国の王女メイエは七歳の時、隣国サレンディア王国へ人質として差し出された。囚われの身となり、修道院で暮らすが、修道女たちから虐待を受ける過酷な日々が続いた。心を閉ざし、死の恐怖に怯える毎日。そんなある日、王太子エルシオンが訪れて、和平が成立して友好による縁談が決まったと告げられる。メイエはサレンディア王国の王太子妃となり、エルシオンによって大切にされる日々が始まった。エルシオンに対し、恐怖から思慕の念を抱くようになったころ、エルシオンがよそよそしくなったように感じ始める。そして麗しい妃がやって来るという話を聞いてしまい、悲しみに暮れるメイエは自分の気持ちを伝えようと心に決めるのだが――
プロローグ
メイエは金の髪に青い目をした、美しい王女だった。
けれど生まれてこの方、一度も幸せだったことはない。
メイエが生を受けたのは十七年前。
故郷のガルナ王国が、隣国サレンディア王国との戦いに敗れつつあった頃だ。
メイエは戦乱の中、国王夫妻の初めての子として生まれた。
しかし母は産後すぐにメイエを残し、息を引き取ってしまう。
正王妃であった母は、父王の寵愛厚い愛人にいじめ抜かれて心身共に弱り果て、初産に耐えきれなかったのだ。
こうしてメイエは、ただ一人の正当な王位継承者となった。
戦争の混乱の中、ガルナ王家は困窮を極めていった。
混乱に乗じ、王の愛人が、王宮で多大なる権勢を振るうようになっていたのだ。
王の愛人に疎まれたメイエは、正嫡の第一王女でありながら、七歳まで城の敷地の片隅の、薄汚い塔で暮らしていた。
そんな中、ガルナ王国はついに、サレンディア王国に敗北する。
メイエが七歳の時だった。
古い伝統を誇るガルナ王国には『最後の一人までサレンディアに抵抗しよう』と主張する、強硬派の貴族が多くいた。
そのため、降伏宣言を出すにあたり、内乱が起きかけた。
なかなか纏まらない和平交渉に怒ったサレンディアは、ガルナに人質を要求する。
人質の条件は、王の血を引く人間であること。
和平が纏まらなかった場合、その人間の生命は保障しない、という二点だ。
人質に選ばれたのは、無垢で幼いメイエだった。メイエが母国で最後に見たのは、床に崩れ落ちて泣き伏すばあやの背中だった。
そして、十年……。
メイエは、一度たりとも大切にされることなく、戦勝国サレンディアの僻地で生かされ続けた。
王女であるメイエの幽閉先は、女ばかりの修道院だった。
『これが厄介者の王女か』
修道院長は鞭を片手に言い放ち、幼いメイエに雑役を命じた。
『どうせ我らが誇り高きサレンディアと、忌まわしきガルナの和平など成立しない。近いうちに殺害命令が下る。この憎き敵国の王女は適当に生かしておけばいい』
修道院長の弟は、ガルナとの戦で命を落としていた。その恨みは、一心に七歳のメイエに向かい、牙を剥いたのだ。
──もう十年経つのね……どうやって生きてきたのか思い出せない……。
十七を迎えたメイエは、掃除道具を突っ込んでおく棚の前で、うずくまっていた。
長い黄金の髪は定期的に背の半ばでざんばらに切り落とされ、手足はあかぎれだらけ。冷え切って、痩せ細った姿をしている。
しばらく王都からの視察はない、という理由で、いつも以上にメイエは虐待されているのだ。
見えるところに傷は残さず、服で隠れる部分だけを蹴られ、殴られ、逆らう気力を持たせないためにと、与えられる食事は最低限。
暴力を振るわれないのは、床をぞうきんで磨いているときだけだ。
会話らしい会話もほとんどしていない。
だから、頭に言葉が浮かぶこともない。
だが死ねないのだ。
メイエは、病になれば的確な治療を施され、死なないよう生かされる。
政治的な人質に何かあれば、責任を問われるのは修道院の女達だからだ。
それに自殺も許されない。
人質として生きることを放棄すれば、ガルナの民に制裁が下されるからだ……。
箱の中に閉じ込められ、苦しみだけを味わうのが、メイエの人生なのだ。
そんな暮らしがもう十年。
この十年の間、何度『和平が纏まらないから、メイエを処刑する』という話になったことだろう。
一度は、血吸い藁を敷いた断頭台に寝かされ、斧を振り下ろされる直前に、処刑が中止になったこともある。
──怖い……。
次はいつ、恐ろしい処刑人達がメイエを引き立てにやってくるのだろう。
寝所にしている物置の扉を叩かれ、無理矢理引きずり出され、『今日お前の命が終わるのだ』と宣告された恐怖が、メイエの痩せこけた身体を震わせる。
──怖い、寒い……怖い……。
ぼんやりとへたり込むメイエの足が蹴りつけられた。
「来なさい。急なことですが王太子殿下が視察に参られます。いつものように微笑んでお迎えし、ご下問には声が出ないフリをなさい」
痛む足に手を当てたメイエに、中堅の修道女が冷たく命じた。
この修道院には、ごくまれに、サレンディアの王太子エルシオンが視察に来る。
その日だけは、メイエは修道着を着せられ、顔色がよく見えるよう化粧を施されて、面会室へと連れ出される。
サレンディアの王太子は、まめに手紙や個人的な寄付金を寄せてくれて、囚われの王女であるメイエを援助してくれる人物だ。
だが、手紙も金もメイエの手に渡ることはない。すべて修道院の女達の懐に消えてしまう。
メイエはのろのろと修道服を纏い、顔にべったりと頬紅を塗られ、突き飛ばされるように歩き出す。
イラストnira.
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