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呪われた黒猫姫は一途すぎる騎士に愛される

  • 作家香月航
  • イラスト欧坂ハル
  • 販売日2019/11/12
  • 販売価格600円

「俺はずっとお傍にいますから。この命尽きるまで、ずっと」――かつて悪魔に呪われたことで、国を追われた王女ベアトリス。彼女は唯一の護衛である騎士ウィルフレッドと二人で、仇である悪魔を退治しながら償いのため旅をしていた。〝悪魔狩り〟として名を馳せる二人は、この日も依頼を受けてとある町にやってきたのだが、この町では女性ばかりが暴力沙汰を起こす奇妙な事件が起こっていて……? ――夜になると呪いで姿を変えられてしまう王女と、彼女をひたすら守り続ける一途な騎士、二人きり贖罪の旅の行方は……?

1章
 ──これは、昔々のお話。
 大陸の端っこの王国に、それはそれは美しいお姫様がおりました。
 小さな国ではありましたが、豊かな土地で暮らす人々は皆心優しく、お姫様もそんな国民をとても大切にしていました。
 しかし、ある日のこと。夜空を引き裂いて現れた恐ろしい悪魔が、お姫様を見初(みそ)めてしまったのです。
『国と民を捨てて、妻になれ。そうすれば、お前の願いをなんでも叶えてやる』
 悪魔は何度も取引を持ちかけましたが、お姫様は毅然と立ち向かいます。
 愛する国と民を捨てることなど、私にはできない、と。
 やがて、しびれを切らした悪魔は、お姫様に呪いをかけてしまいました。
 それはなんと、夜になると恐ろしい化け物になってしまう呪いです。
『おお、なんと醜い姿だ。こんな化け物を、この国には置いておけない』
 哀れで、心優しいお姫様は、国を追い出されてしまいました。
 お供につけられたのは、護衛の騎士がたった一人だけ。
 けれど、お姫様は諦めることなく、呪いを解くために旅に出ます。
 いつか必ず、愛する国に帰ってこられると信じて。
* * *
「──トリス様。トリス様、起きてください。町につきましたよ」
「……ん」
 背後から響く心地よい声に呼ばれて、トリスの意識がゆっくりと浮上する。
 ……なんだか、懐かしい夢を見ていたような気がする。それがどんな内容だったのかは、もう思い出せないけれど。
「トリス様?」
 もう一度軽く揺さぶられれば、意識がハッキリと覚醒した。
 視界に映るのは、そろそろ見飽きてきた木ばかりの街道の景色ではない。煉瓦(れんが)を積んで造られた壁と、その向こうに広がる町の姿だ。
「……おはよう、ウィルフレッド。すっかり眠ってしまっていたわ」
「はい、おはようございます。もうお昼ですけどね」
 条件反射で首を背後に向ければ、自分を抱える男の笑顔が飛び込んでくる。
 男性らしい整った輪郭の中に、絶妙なバランスで配置された目鼻立ち。柔らかく微笑む碧色の瞳には、長い睫毛が陰を落としている。
 まるで芸術品のような容貌は、『実は天使だ』といっても信じられそうなほどに美しい。
(ああ、しまった……美形の顔なんて、寝起きに見るものではないわね)
 視線を向けたのは自分だが、あまりに眩しすぎる姿に、思わず目をすがめてしまう。さらりと揺れた金色の髪が、真昼の太陽の光を反射してさらに目に痛い。
「ん? なんですか、その不服そうな顔は。まだ寝ぼけているんですか、トリス様」
「……起きているわ。ただ、貴方の顔がきれいすぎて眩しかっただけよ」
「おや、それはどうも」
 ぎゅっとまぶたを閉じて首を前へ戻せば、背後から回された腕に力がこめられる。
 彼……ウィルフレッドと旅を始めてずいぶん経つが、その美しい容姿にはちっとも慣れないのだから困ったものだ。

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