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魔王様はきまじめ皇女を溺愛したくて空回り!

  • 作家桔梗楓
  • イラスト桜之こまこ
  • 販売日2019/03/19
  • 販売価格500円

人間の皇女バレンティナは腹違いの兄に死を望まれ、魔族の森に放置される。魔族に食われて死ぬと思ってのことだ。死を覚悟したバレンティナであったが、魔族に救われ、魔王の城にて丁重なもてなしを受ける。一方、魔族の王であるイシュラードはバレンティナを一目見て恋に落ちてしまった。彼女こそが次なる魔王を産み落とせる〝ツガイ〟だと確信。想いが猛るばかりにバレンティナにキスし卒倒させてしまうものの、それでも贈り物や愛の囁きに必死。さらに生を受けて以降初めてあの部分がざわめき、驚く始末。果敢に愛を告白するもなぜだか通じなくて空回ってばかり。バレンティナを想うあまり爆裂暴走するのイシュラードの愛の行方は!?

第一章 憎しみの果てに助けられた皇女
 バレンティナ皇女が薬を盛られ、意識を失う寸前に見たのは、憎しみの形相で睨み付ける、兄の姿だった。
 次に意識が戻った時、バレンティナは身動きが取れないよう、森の木の幹に身体が括り付けられていた。
「目が醒めたか。ここは魔族の森。人間が迷いこめば、生きて戻ることはできないと言われている死の森だ。おまえはここで死んでもらう」
 バレンティナの面前には、兄と数人の近衛兵が立っていた。
 磔にされながらも、バレンティナは気丈な琥珀色の目で兄を睨み付ける。
「私が一体、何をしたというのですか」
 誰かを謀ったわけでもなく、帝国に反旗を翻したわけでもない。
 バレンティナの日常は穏やかだった。兄に憎まれ、魔族の森で磔にされる謂われなどない。
 兄はフンと鼻を鳴らした。
「おまえは何もやっていない。ただ、俺達にとって目障りだっただけだ」
 大陸西方に位置するヴィダル帝国。その第一皇子である兄は、第三皇女にして腹違いの妹、バレンティナを見つめた。
「六人の皇子皇女の中で、もっとも真面目で清廉で、まさに帝国民の鏡となるべき模範のような皇女。父上の覚えもめでたい上、臣民の人気も高い。バレンティナ。おまえはな──うまくやりすぎたんだ」
 その言葉に、バレンティナは悲しく顔を歪ませた。
「私は、私の務めを果たしていただけです。それを『うまくやりすぎた』などと評し、くだらない嫉妬で私を葬るのですか? 兄様の務めはそんなことではないでしょう」
 パン、と乾いた音があたりに響く。
 バレンティナの頬は兄にぶたれ、赤い痣がついた。
「黙れ。腹違いの妹が直系の兄に生意気な口をきくな。そういう所が気に食わないんだ。いつも品行方正、誠実な性格。常に臣民の心に寄り添い、共に笑い共に泣く。今やおまえは帝国一愛される花としてあがめられている。面白くないに決まっているだろう?」
 初めて兄の本音を聞いたバレンティナは、目に涙を浮かべた。
 ──こんなにも憎まれていたのか。兄の母である前正妃が亡くなり、バレンティナの母が後妻となった時から、もしかすると憎しみを募らせていたのかもしれない。
「今の皇妃から生まれた、唯一の腹違いの妹、バレンティナ。父である皇帝はおまえを溺愛している。バレンティナにあてがう夫を次代の皇帝にすると口にした噂もある」
「そんな! 皇帝は私情でまつりごとを行うような方ではありません。それは兄様もわかっておいででしょう!?」
「いいや。おまえさえ死ねば、全ての事柄が円滑に進むんだよ」
 言いたいことを言い終えたのか、兄は後ろを向く。
「バレンティナは、魔族に食い殺されるのがお似合いだ。惨たらしく食べ散らかされて死ね」
 近衛兵を従え、兄は森を去った。
 ひとり、木の幹に磔にされたバレンティナは肩を落とす。
「私は、兄様をあそこまで苦しめていたのですね」
 後妻の娘として、慎ましく生きていたつもりだった。勉学に励み、たゆまぬ努力を重ねていれば、いずれ前妃の子である皇子皇女にも妹として認めてもらえるはず。そう信じて、毎日務めを果たしていたつもりだった。
 しかし、そんなものは単なる願望だった。兄はバレンティナが生まれた時から気に食わないと思っていたのだ。
 カサ、と近くで草を踏む音が聞こえる。
 バレンティナはびくりと身体を震わせた。
「何の音……? まさか、魔族がいるの……?」
 この世界には、高い知能を持つ種族が二種類存在している。ひとつは人間。そしてもうひとつは魔族だ。
 遙か昔から諍いの絶えない種族。バレンティナは本でしか魔族の存在を知らなかった。守りが万全な帝国の、しかも城に住んでいると、帝国の外は未知の領域である。
 教師の話によれば、魔族は醜い姿をしており、人間を丸呑みにしてしまうほど巨大なのだとか、骨までたやすく破壊できる恐ろしい歯を持っているとか。あるいは体内に取り込み、少しずつ身体を溶かしていく軟体生物だとか……。
 さすがに恐ろしくなって、かちかちと歯を鳴らす。
 草を踏む音は段々と近づいた。やがて、ヌッと大きな影が現れる。
「きゃあああ! ……え?」
 悲鳴を上げたバレンティナは、その美しい姿を見て、思わず目を見開いた。

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