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女嫌い将軍と政略結婚した、見せかけの悪女です~二度目の初夜からはじまる蜜月生活~

  • 作家木下杏
  • イラスト蓮水薫
  • 販売日2020/05/19
  • 販売価格700円

男を誘惑する〝悪女〟と噂されている伯爵令嬢のアリッサ。華やかで艶美な容姿の彼女は、本当は噂とは正反対の性格だが、とある事情でこの悪名だけが独り歩きしてしまい、適齢期を過ぎてもまだ婚約者がいない。そんなある日、アリッサに王命で縁談が舞い込む。相手は国を救った英雄と名高い将軍・ジークベルト。しかし彼には〝女性嫌い〟の噂があって!? 近寄りがたい容姿で無口な彼は、これまで片っ端から縁談を拒んできたらしいが、アリッサは断るすべもなくコワモテ将軍に嫁ぐことに。――結婚後も笑みひとつ浮かべないジークベルトに、幸せな生活を早々に諦めるアリッサ。ところが初夜を迎えてから二人の関係に少しずつ変化が……?

 天井からぶら下がるシャンデリアは無数の光を放ってキラキラと輝いている。楽団が奏でる優雅な音楽。ホールの中央で踊る着飾った男女。煌びやかな雰囲気が漂う広い大広間で行われている夜会の真っ最中に、アリッサ・クローゼルは上品な笑みを浮かべる人々の合間を抜けて歩いていた。
「ごきげんよう、アリッサ。本日の首尾はいかが?」
 辿り着いた先には、友人で今は伯爵夫人の座に収まっているエヴリーヌが笑みを浮かべて佇んでいた。アリッサはエヴリーヌがひらひらと動かす扇を見ながら不貞腐れた表情でふっと息を吐いた。
「ぜんっぜん、だめ。もう希望はないわね。私はたぶんこのまま一生、未婚の身よ」
「あら、まだ期待をもっていたの? まあ、どれだけあなたの器量が良くても見染められることはもう難しいでしょうね。よっぽど世間知らずでなければ。でもそもそも、見染められて望まれるなんてことは、みんなに起こることでもないのだし、そんなに悲観しなくてもいいんじゃなくって? その内あなたのお父さまがどうにかしてくださるでしょ。あなたの噂を気にしない方も中にはいらっしゃるでしょうし」
「どうかしらね」
 アリッサは皮肉気な笑みを浮かべるとふいっと視線を遠くに向けた。彷徨(さまよ)った視線がある一点で止まる。すると、その顔は苦々しいものに変わった。
 そこには、アリッサの姉が配偶者を同伴して満面の笑みで立っていた。
(まったく、やってらんないわ)
 今の自分の苦境を招いた人物のそんなことはどこ吹く風の顔を見るのは、なかなかに苛立たしいものだった。アリッサは肩を竦めると、今日はもう帰るわとエヴリーヌに言ってそっと身を翻した。
 アリッサは今年で二十二歳になった。アリッサが暮らしているこのブルーメンタール王国では、貴族の子女の結婚適齢期は十六~二十二歳ぐらいまでだと言われている。言われているが、周りを見ていると、大体、二十歳ぐらいには婚約までを済ませていることが多い。つまりアリッサは既に行き遅れの領域に足を突っ込んでいた。それには、必ずしもアリッサのせいだけとは言えない、一言では語れない事情があった。
 それでも端的に言えば、大元の原因は先ほど舞踏会で誇らしげに自分の夫を連れ歩いていたアリッサの姉にある。アリッサは四人姉妹。一番上の姉クロエは、クローゼル家を存続させるために婿をとったので早々に結婚している。アリッサより年齢が一つ上の、二番目の姉タニアがアリッサにとっては昔から目の上のたんこぶのような存在であった。
 思えばタニアは昔から我儘な性格だった。幼い頃は一歳でも年が違えば、それは関係性に意外なほど影響を及ぼす。アリッサはよくタニアに玩具や持ち物を横取りされていた。言い出したら聞かず、下手をしたら癇癪を起こす。一番上の姉のクロエは長女という立場のせいかやや独裁的なところもあったが、そこまで横暴ではなかったから、アリッサはその理不尽な振る舞いに、タニアさえいなければ、と思ったことも一度や二度ではなかった。

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