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クールな医師と家政婦の危ない過ち~親密な一夜が忘れられない~

  • 作家桐野りの
  • イラスト百山ネル
  • 販売日2019/04/10
  • 販売価格300円

家政婦のしほりは、クライアントである医師・才野に呼び出され、謎の女の子、あかりの面倒をみることになった。独身だと思っていたけど、子どもがいたの? と動揺してしまうしほりだが、いつもクールで感情を表に出さない彼が、初めて見せる優しさにドキドキ。クライアントに深入れするのはいけないことだとわかっていても、どんどん才野に惹かれてしまう。前の奥さんはどんな人だったんだろう。私のこと、どう思っているんだろう。ますます、才野が気になるしほり。一夜の過ちから、才野の本当の気持ちがわからなくなったしほりは彼の前から姿を消すが……。仕事を生き生きと頑張る女性に、ある日落ちてきた素敵な恋。

◆一話
 マンションに入った瞬間、山中(やまなか)しほりの耳に、大きな物音が飛び込んできた。
「失礼します……才野(さいの)さん……ですか?」
 廊下を進みながら、しほりはリビングに向かって恐る恐る声をかける。
 返事のかわりに、また物音がした。さっきよりも大きな音だ。
 人と人が揉み合っているような気配もする。ドアを開けようとしてはっとした。
(もしかして泥棒? やだ、どうしよう)
 ハウスキーパーの仕事を始めて、今年で三年目になる。
 総合病院の内科医であるこのマンションの主、才野俊介(しゅんすけ)の担当になったのは半年前だ。
 その才野から三十分前に、『手が空いていたらで構わない。うちに来てくれないか』とボイスメッセージがあった。
(オフに連絡なんて初めてだ……)
 いつになく切迫したその声音に、しほりは、いぶかしみながらもマンションに向かった。
 そして激しく後悔している。
(あれは本当に才野さんの声だったかしら……もしかして泥棒のなりすましだったかも……ああ、いつもの癖で合鍵使っちゃったけど、ブザーを鳴らすべきだった……)
 ハウスキーピングは他人のパーソナルスペースの中心に、ズカズカと踏み込んでいく仕事だ。
 泥棒との遭遇やクライアントからのセクハラなど、普通の会社勤めとは、違う種類のトラブルも多い。
 万が一の時のために、斡旋会社の研修では一通りの護身術を教えられた。
 しかし、いざとなると何一つ思い出せない。怖くてそれどころじゃなく、バッグを顔の前に持ち上げて、へっぴり腰で防御するのが精一杯だ。
(一度外に出て、警察に電話してみようか……)
 そうしほりが考えたとき、リビングのドアが開いて、赤色の小さなものが、勢いよく飛び出してきた。
「きゃっ……!」
 悲鳴をあげるしほりの目前で、それは急ブレーキで立ち止まった。
 見ると赤いワンピースを着た、おかっぱの女の子だった。
 カラスの羽のように真っ黒な髪が印象的な美少女である。右手にうさぎのぬいぐるみを持っている。
 びっしりとした長いまつ毛に縁取られた大きな瞳が、こちらをじーっと見上げていて、しほりは視線の強さにタジタジとなった。
「おいこら、待て」
 その後を追って、才野が飛び出してきた。
 彼はしほりが二十五年間の人生で出会った男性の中で、最も美しい人だった。
 きりっとした印象の顔立ちで、正面から見ても横から見てもスキのない、完璧に整った造作をしている。
 切れ長の目は涼しげで、身長はすらりと高い。
 毎朝、ブランド物のスーツをパリッと着こなし、黒いセダンに颯爽と乗り込む姿は、ハリウッドスターのようだった。
 しかし今、才野の髪の毛は無残に乱れ、Tシャツの襟ぐりは伸びて、よれっとしている。
 くたびれた様子が、普段とは違う色気を醸し出していて、しほりは思わずドキッとしてしまった。
 女の子はしほりの背中に隠れ、エプロンの紐をぎゅっと握った。
 うつむくと、才野に向かってあっかんべーのポーズをしているおしゃまな姿が目に入る。
「こら、あかり……!」
 声を荒らげた才野は、すぐにしほりに気がついて視線を上げた。
「あ、君か。来てくれたんだな」
 地獄で仏に出会ったとでも言うような、心の底からほっとしたような表情だった。
「はい……たまたま近くに来ていたので、お返事せずに来ちゃいました」
 泥棒ではなかったことに安堵しながら、しほりはおずおずとそう答えた。
 不意に伸びてきた才野の手が、しほりの肩をがっちりとつかんだ。
「頼む。助けてくれ」
 この家に派遣されて半年になるが、こんなに切羽詰まった様子の才野は初めてだ。
「私にできることであれば」
 しほりはそう言ってうなずいた。
 女の子の名前は臼井(うすい)あかり。歳は六歳ということだった。
 しほりがうさぎのぬいぐるみを使って、即席のお話を聞かせると、あかりは次第に落ち着きを取り戻した。
 今ではソファに横座りして、子供向けアニメに夢中になっている。

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