夢中文庫

医者の跡取り息子に翻弄されて

  • 作家如月一花
  • イラスト夢志乃
  • 販売日2018/09/18
  • 販売価格400円

大学病院で小児科医として経験を積んできた徳田かずゑは、実家の医院を継ぐも診察を受けにくるのは毎度おなじみのお年寄りたちばかり。一方、同じく病院を継いだ幼馴染の三上一之介の様子を偵察に行くと、かずゑのところとは違い子どもたちで溢れていた。一之介から診察を手伝って欲しいと頼まれ渋々引き受けるのだが、同じ小児科医としての考え方、母親たちへの接し方など、一之介と自分は違うと感じるかずゑ。彼のことは淡く想っていたけれど、ライバルということもあり素直になれずにもいた。しかし、一之介から少し強引に誘われたかずゑは、自分がまだ男性を知らないことを悟られたくなく、強がって応じて一線を越えてしまうのだが──。

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アルコール消毒液の匂いの漂う部屋で、徳田(とくだ)かずゑ(かずえ)は、ボブヘアから僅かに落ちる髪を耳にかけると、午後の患者のカルテを見ながらため息を吐いていた。
 後五分もすれば午後の診察が始まる。
 おにぎりをささっと食べて気合を入れてはいるものの、徳田医院は静かなものだった。
 風邪が流行り始め、子どもたちの間ではインフルエンザが少しずつ流行っていると聞いている。
 しかし、かずゑのもとにくるのは老人ばかり。
 市役所で冊子が配られるから、徳田医院が小児も診ているのは知られているはずだが。
 老朽化した建物のせいもあるかもしれないし、設備も古い。少し場所が奥まったところにあるせいかもしれない。若い母親が、綺麗で素敵な病院を選ぶのはここ最近よく分かっているのだが、理由がそれだけじゃないことが頭の片隅に思い浮かぶ。
(顔も良くて、デキる医者が好き……)
 何を余計な考えをしているのだと首を振りつつ、消せない考えを払おうと、ちらりと時計を見て、もう一度カルテに目を落とした。
(高田(たかだ)さんは胃が痛い。五反田(ごたんだ)さんは風邪。下田(しもだ)さんは喉が痛い……。いつもの三人ね)
 その三人を見て、かずゑはため息を吐いた。
 風邪が流行っていようが、インフルエンザが流行っていようが、この三人には関係ない。
 大したことがなくても、いつも三人揃って来る。
 追い返すことも出来ずにいるのは、それなりに高齢であり、嘘をついているわけではないからだ。
 胃が痛いというのも、風邪というのも、喉が痛いというのも、嘘ではないことは分かる。
 でも、症状が軽いのは診なくても想像は出来た。
 そして、閑散とした徳田医院とは真逆に近くにある三上(みかみ)病院はてんてこ舞いなのをかずゑは知っている。
 幼馴染であり跡取り息子の三上一之介(いちのすけ)が病院長になってから、見た目も綺麗になった。設備も充実させたと聞いている。そしてなにより、一之介が美貌の持ち主なのだ。
 母親受けが良いのは当然で、この時期はとくに三上病院は忙しくしているだろう。
(まったく……。この前、うちの病院のレビューみたら、汚くて古いって書いてあったし。診察とは関係ないことばっかりだったわ)
 看護師が綺麗に掃除もしているし、古めかしいのは大掛かりな改築工事をしないとどうにもならない。そんな金はどこにもないが。
 かずゑの診察は大学病院でしっかり学び先輩からもお墨付きだというのに、母親の見るところは外観ばかりだ。とはいえ、それも仕方ないかと、午後の診察を始める。
 看護師に高田を呼ぶようにお願いすると、ドアを開けて入るなり、高田がわざとらしく腹を抱えて入ってきた。その演技だって見飽きたというのに、少し薄くなった毛を掻きながら、「いててて」と顔をしかめている。
 すぐに椅子に座ってしまうと、高田がかずゑの手を握ってきた。
「腹を撫でてくれ、先生」
「胃が痛いんですよね。薬出しますので」
 すっと手を引いて、しれっと横を向くと高田は悲しみを込めた声を上げる。
 そして「いてええ」とまた言い始めた。
「レントゲンとか、バリュウムとか、なんでも検査するから、先生と長く居たいよぉ」
「はい、分かりました。その必要はありません。二、三日様子を見て、まだ痛むようでしたら、また来てください」
 かずゑは澄まし顔で言う。
 触診なりした方がいいのだろうが、一か月同じことを繰り返していて、全く同じことを言っている。ぼけているわけじゃないのだが、看護師いわく、かずゑを心配して来ているのだそうだ。
「では、お大事に」
「先生……また来るから」
「……よく休んでください。あ、今インフルエンザが流行っているので、予防接種してください。他のお友達にも伝えてくださいね」
「分かった。すぐに予防接種しに来るよ」

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