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新婚生活は毎日旦那さまから愛されて、守られて、文句ありません。

  • 作家如月一花
  • イラストnira.
  • 販売日2018/11/02
  • 販売価格400円

お見合いで城之内晴と知り合った内田美歩。実家は元華族であったが既に普通のOLとして暮らし、結婚への憧れもあった。対して晴はハーフで海外生活も長く、仕事もやり手だと聞いて引け目を感じるが、交際三ヶ月でスピード結婚となってしまう。ハネムーン先のフランスで初夜を過ごしたり買い物をしたりして楽しく過ごし、その日から毎日のように身体を重ねることに。無理難題の要求にも応えてしまう。身も心も晴の虜になるが、ある日、両親から晴の出世への熱と冷徹な一面を聞かされ別居を勧められてしまう。「私と結婚したのは出世のため…?」それでも彼を信じたい美歩。溺れるような愛情の正体とは…?

「食後のお茶でも飲まない?」
 母の優しい声音に内田(うちだ)美歩(みほ)はにこりと微笑み、座っていたスツールから立ち上がる。
 今日は仕事から帰るなり、母に出迎えられて「美味しいケーキがあるの」と言われたのだ。
 なぜ出迎えるのだろうと思いつつ、美歩は頷いて疲れた身体をすぐに癒したいと荷物を置いてバスルームに直行したのだが──。
 そのことをすっかり忘れていたわけではないが、言われなければ思い出すこともなく眠ってしまったかもしれないと思った。
 金曜日の夜だから仕方ないと思って、キッチンに立つ母の手伝いをしようとした時だ。
「美歩ちゃんは座っていて? 疲れているでしょう? 受付のお仕事も大変よね。いつも笑顔で対応しないといけないんだから」
「うん……でも……。それは仕事だから」
 二十五歳にもなって、相変わらず『美歩ちゃん』と親に言われることに多少の恥ずかしさはあるものの、慣れてしまっているので否定もしない。
 手伝いをしなさいと、うるさくいつも言うから席を立ったのだが、母は嬉しそうに鼻歌を歌っている。
(何かあったの? ふたりで旅行でも行くの?)
 スツールに腰かけ直すと、父が咳払いをする。
 風邪でも引いたのかと見つめると、ローテーブルにすーっと写真が出された。
「これ……なに?」
 もう一度咳払いをされて、父はぼそりと言う。
「美歩もそろそろいいだろう。結婚をして、家族を持ちなさい」
「結婚……」
 職場では、何人か寿退社をした女性もいた。確かに、友達は結婚したいと言っていたし、お見合いを勧められていると聞いたりもする。
 でも、美歩はまだだろうと思ったし、仕事もそれなりに楽しい。
(それなりに──)
 やりがいとか、生きがいとか、そういうものまでは見いだせないのも事実で、結婚をしていく人をどこか羨ましいと思ってはいた。ただ、せっかく入った会社なのだし、あまり大きな声で結婚がしたいと言っては失礼だろうと、美歩なりに気持ちに折り合いをつけていたのだ。こんな形で結婚のチャンスが舞い込むなど、美歩にとってはどう答えていいのか分からない。
「相手は、城之内(じょうのうち)晴(はる)くん。三十歳。大手食品企業の営業部の課長をしていて、海外からの引き抜きだ。あっちでも食品メーカーに勤めていたそうで、日本語、フランス語、英語が話せる。おまけに、ハーフだ」
「ハーフ……」
 父の一気にまくしたてるような説明に考えが追い付かずに、美歩は目を瞬かせた。
 つまり、凄い人、ということなのだろうが、果たして自分でいいのだろうか。
 確かに内田家の先祖は華族であり、家柄は申し分ない。
 しかし、それは昔の話なのだ。
 女中が家にいるわけでもなく、着物を着せてもらうわけでもない。
 嫁ぎ先はいつだって名家であり、女は子を産む為にいるという時代でもない。
 女に生まれても働かなくてはいけないし、嫁ぎ先だって自由だ。
 今はすっかり一般家庭のサラリーマンと同じで、違うとすれば、代々ある土地を受け継ぎ代官山に住んでいる、という程度だ。
 母は美歩にしっかりと地に足を付けた女性になって欲しいと、お金の事には厳しく育てられ、内田家が名家である──ということは口にしないように言われている。
 今ではすっかり没落したといってもいいのだし、美歩には取り柄らしいものもないのだから、相手の話を聞くと申し訳なくなる。
「どうだ?」
「どうって……。そんな凄い人と結婚出来ないわ」
「なんでだ?」
「だって……私……」
 美歩は口を濁した。
 何も出来ない、それだけが理由でもない。
 恋愛らしい恋愛もなく、身体は乙女のまま。そんな自分を、海外帰りの彼が喜ぶとは思えない。むしろ、面倒だ、と思うような気がする。

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