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傲慢侯爵の一途な執着

  • 作家北野ふゆ
  • イラストさばるどろ
  • 販売日2019/05/13
  • 販売価格500円

流行り病で両親を亡くした伯爵家の一人娘・リゼットは、悲しみに沈む間もなく身の振り方についての決断を迫られた。伯爵位を継ぐ為、半年以内に結婚しなくてはならないのだ。遺産を狙う従兄に襲われそうになったリゼットを救ったのは『婚約者』と名乗る美貌の侯爵・マティアス。彼は昔、とある事情からリゼットの家に預けられていた。「娘の結婚相手は父親が決めるものだ。君の意見は必要ない」冷たく宣告するマティアスに失望するリゼット。天使のように愛らしかった小柄な少年は、十数年を経て美しくも傲慢な青年へと成長していた。リゼットは愛のない結婚生活を覚悟して嫁ぐが、夫となったマティアスは意外なほど彼女に尽くしてきて――。

プロローグ
 自分より背の低い少年の手を引き、リゼット・マルリアーヴはまっすぐ前を向いたまま納屋の脇を通り過ぎた。彼女が足を踏み出す度、背中まであるくすんだ金髪がふわふわ揺れる。短い睫毛に縁どられた瞳は単調な焦げ茶色をしており、丸い鼻の上にはうっすらとそばかすが散っている。マルリアーヴ伯爵の一人娘であるリゼットは、お世辞にも美人とは言えない少女だった。
 一方、少女が連れ回している少年は天使のように愛らしい。肩までの銀髪は絹糸のように艶やかで、その顔立ちはすれ違う人が皆振り返らずにはいられない程整っている。
「あれ? かくれんぼするんじゃないの?」
 少女にしっかり手を握られた少年は首だけで納屋を振り返り、不思議そうに青い瞳を瞬かせた。リゼットは足を止め、やれやれと首を振って少年を見下ろす。
「かくれんぼは昨日したでしょ。マティは隠れるのも見つけるのも下手なんだもの、続けてしても面白くないわ」
 マティと呼ばれた少年の名は、マティアス・アルヴィエ──アルヴィエ侯爵の一人息子である。九歳になったばかりの彼は、同年代の少年に比べて随分と身体が小さい。二つ年下ではあるが大柄なリゼットの方が年上に見えるのは仕方のないことだった。
 身分においても年齢においてもマティアスの方が上なのだが、まだ幼いリゼットに大人の物差しは通用しない。彼がマルリアーヴ家の領主館に預けられたその日から、リゼットにとってマティアスは彼女が世話を焼いてやらねばならない弟分だった。
「だってリゼは、僕が見つからないと慌てるし、僕がすぐに見つけると悔しそうにするから……」
 マティアスは小声で呟き、反論した。『面白くない』と言われたのが少し悔しかったのだ。
「なにそれ。じゃあ、わざと手を抜いてるってこと? 楽しくないのに付き合ってたの?」
 少年の弁明を耳ざとく聞きつけたリゼットが、つぶらな瞳を丸くしてマティアスを凝視する。信じられないと言わんばかりの顔に、マティアスは心の中で白旗をあげた。ここで肯定すれば、リゼットは彼を遊びに誘うのを止めてしまうだろう。
 孤独なマティアスにとって、リゼットは特別な少女だった。彼の母であるアルヴィエ侯爵夫人とマルリアーヴ伯爵夫人は遠い親戚関係にある。四年前、子ども嫌いなアルヴィエ侯爵夫人はそれまで全く交流のなかった遠縁の家に実の息子を預け、知らぬ振りを決め込んだ。
 たった五歳で王都にある生家を出され、遠い田舎に追いやられたマティアスに、マルリアーヴ家の面々は皆深く同情した。彼を憐れまなかったのはリゼットだけだった。
 兄妹のいないリゼットは突然出来た遊び相手に歓喜し、玄関ホール中を飛び跳ねて回った。その時の底抜けに明るい笑顔とはしゃいだ声をマティアスが忘れたことはない。リゼットの歓迎は、一人馬車に乗せられた時に冷たく凍ったマティアスの心を溶かしてくれた。恩人とも言えるリゼットと遊べなくなるなんて、想像しただけでも耐えがたい。
「そういう意味じゃない。僕も楽しんでるよ」
 慌てて否定したマティアスを疑り深い眼差しで見つめた後、リゼットは一つ溜息をついて再び歩き始めた。マティアスには意外と頑固なところがある。儚げな外見とは裏腹に、一度と決めたら一歩も引かないのだ。これ以上問い詰めても本音は言わないだろう。

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