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摂政姫と烙印の騎士~剣術指南の蜜甘対価~

  • 作家小出みき
  • イラスト旭炬
  • 販売日2020/08/04
  • 販売価格500円

「あんたを俺のものにしたいんだよ、王女様」現国王の幼い弟に代わり摂政を務める王女アザレー。母の形見を探しに訪れた森で、盗賊に襲われたところを黒髪蒼目の美男子ヴァルターに助けられる。素性を明かさない彼に、亡き初恋の王子と同じ色彩を見つけて警戒心が薄れ、守備隊長に勝てたら王城で雇う約束を交わす。――「対価として気位の高い王女様をいただくとしよう」圧倒的な実力を見せつけたヴァルターを約束通り雇うことになるが、提示された国家予算なみの雇用報酬の代わりは〝アザレー〟で!? 夜ごとヴァルターの熱い口づけを受け入れ、身体に悦びを教え込まれていく。そんな彼の背中に、曰くつきの烙印を見つけて……?

初恋の人だった。
 一目で心を奪われた。
 彼は隣国の王子で、八つ年上の兄と同い年の幼なじみ。わたしが彼に出会ったのは六歳のその日が初めてだった。いつもは兄のほうが彼の国へ遊びに行っていたから。兄の十五歳の誕生日を祝うため、彼は初めてわたしたちの城を訪れた。
 立派な体格の黒葦毛(くろあしげ)の馬を見事に乗りこなして、彼は馬場の柵の前でぴたりと止まった。
 艶やかな漆黒の髪をわずかに乱し、健康そうな肌色を上気させてにっこりと笑う。わたしは召使に持ってこさせた台の上に立っていたので、鞍に座る彼と目線はほとんど変わらない。
「やぁ、初めまして。きみがアザレー姫だね?」
 晴れ渡る青空のような瞳がわたしを見ていた。吸い込まれそうな蒼(あお)い瞳──。
 次の瞬間、わたしは叫んでいた。
「あなたのお嫁さんにして!」
 綺麗な蒼い瞳がまんまるに見開かれる。
 彼と並んで馬を止めた兄が弾けるように爆笑し始めたのも、懸命に彼を見つめるわたしの耳には届かなかった。
 願いどおり、わたしは彼の許嫁になった。
 だけど、彼の元へ嫁ぐことはなく──。
 婚約からたったの二年後。彼の国で政変が起こり、両親ともども殺されてしまったから。
 王位を奪ったのは国王の異母兄。彼の伯父だった。
 政変から五年後。帝国軍が侵攻して彼の母国を呑み込んだ。
 今はもう、その国は、ない。
第一章
 アザレーは必死に逃げていた。
 馬を急かし、森の中を全速力で駆け抜ける。密集した木立が視界を遮り、すでに方向もわからない。
 顔にかかる桃金色(ピンクゴールド)の髪を乱暴に払いのける。
(ああっ、もう! どうしてこんなことに……!)
 下ばかり見ていて、ならず者どもに気付くのが遅れた。
(仕方ないわ、落とし物を探していたんだもの)
 そのせいで、気付いたときには流れ者の盗賊どもに取り囲まれてしまっていた。ふと、やけに赤いものが視界に映り込み、なんだろうと顔を上げると、にんじんみたいな赤毛の髭もじゃ男が切り株に座って干し肉にナイフを入れていた。その手前に、ずらずらと人相の悪い荒くれ男がたむろして、刃物の手入れをしたり、革袋からワインをがぶ飲みしている。
 ぎらりと男どもの目が光る。獲物を見つけた密猟者みたいな目付きだ。
 慌てて馬の向きを変え、思いっきり腹を蹴った。しかしすでにアザレーは道を外れ、森の奥深くに入り込んでいた。どこで落としたのかわからなかったので、前日の狩りで通った場所を、記憶を頼りにたどっていたのだ。
(昨日はこんな奴らが入り込んでいる痕跡なんかなかったのにっ……)
 街道沿いを徘徊する追剥(おいはぎ)どもは、国境なんぞお構いなしにどこへでも入り込み、荒し回る。
 兵力不足で警備がずさんになっていることには、以前からうすうす気付いていたのに。対策を怠っていたつけを、こうして我が身で払わされることになってしまった。まったく悔やんでも悔やみきれない。

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