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公爵令嬢の華麗な誤算~復讐するはずの美男子が豹変しました!?~

  • 作家こいなだ陽日
  • イラスト稲垣のん
  • 販売日2019/6/14
  • 販売価格500円

公爵令嬢のエレナには親に決められた婚約者がいるが、そこに恋愛感情はない。婚約を解消したいと思っている中、貴族の間で恋愛結婚が流行に。エレナも恋愛結婚がしたいと婚約解消を言い出してみるが、「ならば恋愛を経験させ、最終的に失恋させればいい」と、親がひとときの恋愛相手を用意していることを知る。憤慨したエレナは、お金につられてこんな依頼を受けるような性悪貴族には仕返しを……と考えるけれど、いざ現れたステファンはとても性悪には見えない。戸惑いつつも、彼のことを知るうちに惹かれていくエレナ。どうしてもステファンと結ばれたいエレナは大胆な手段をとるが、優男だと思っていた彼の様子が一変して……!?

エレナ・グロンベルグは一枚の紙を眺めながら、溜息をついた。
 机いっぱいに広げられたそれは、家系図だ。
 グロンベルグ公爵家当主である父親から何代も前まで遡れば、王族に繋がっている。数ある貴族の中でも、グロンベルグ家は王族ゆかりの名門という位置づけだ。
 エレナは、そんなグロンベルグ家の長子である。長子といっても女性であり、弟が三人もいるので、家を継ぐ予定はない。いずれは結婚して家を出て行くこととなる。
 家柄が釣り合うように、同じく名家として知られる侯爵家の子息が許嫁として決められていた。
 エレナは今、十九歳。婚約者もいるのだし、もう嫁いでもおかしくない年齢であるものの、なんだかんだ理由をつけて結婚を先延ばししていた。
 どうにかしてこの婚約を白紙にできないか、とうとう家系図まで持ち出してみたが、そこにエレナが期待した情報はない。
 ふたつの家系図を眺めて溜息を零すと、ノックの音が聞こえた。入室を許可すると、エレナ付きのメイドであるサニーが紅茶を乗せたワゴンと共に入ってくる。
「お嬢様、また家系図を見ていたのですか?」
 呆れたように、サニーが言う。
 彼女はこの公爵家の執事頭の娘で、エレナと同じ年齢だ。主従関係であるが、小さい頃からの付き合いなので、エレナにとって友人のような存在であった。
 サニーも、二人だけのときは気軽に話しかけてくれる。
「もう三日は家系図を見ていますよね? なにか発見でもありましたか?」
「なにもないわ。……これは片付けてちょうだい」
 エレナは諦めたように、家系図をたたんだ。
「どこかに庶民の血が混じっている疑惑の名があれば……と思ったけれど、だめね。完璧だったわ」
「純血でない疑惑があれば、それを理由に婚約を解消できますものね。……まあ、この家も相手の家も、どちらも由緒正しき名家ですから、それはないと思いますけど」
 サニーは紅茶の用意をしながら苦笑する。
 この国において純血というのは、王族・貴族階級の血だけで紡がれた家系のことを指していた。
 貴族の間では王族と貴族の血を尊いとする『純血主義』という考えが古くから根付いており、そこに庶民の血が混じると「あそこは純血ではなくなった」と蔑む傾向にある。
 名門と言われるエレナの家は純血を貫いており、許嫁の家も同じであった。だからこそ、エレナが小さいうちに親同士が許嫁として決めたのである。
 だが、もし互いの家系図に少しでも疑わしい噂のある者がいたら、それを理由に婚約解消できるのではないかとエレナは思っていた。
 純血と名乗っているものの、妻との間に子宝に恵まれず、使用人との間に生まれた子を密かに妻の子として戸籍に載せた──そんな疑惑のある貴族がいくつか存在するのだ。
 それが本当かどうか、真相はどうでもいい。疑惑さえあれば、婚約解消にまで持っていける自信があった。
 それなのに、家系図は非の打ち所がないほど完璧で、どの人物を調べても埃のひとつも出てこない。許嫁の家系図も極秘に取り寄せてみたものの、やはりなんの問題もなかった。
 血を理由に婚約解消するのは無理そうだと、エレナは肩を落とす。
「そんなにエーヴェルト様と結婚するのがお嫌ですか?」
 サニーが訊ねてくる。エーヴェルトというのが、エレナの許嫁の名前であった。
「嫌よ。エーヴェルト様のことは友人としては好きだけれど、恋愛感情は抱けないもの」
 エレナはきっぱりと言い切る。
 婚約者のエーヴェルトは名門侯爵家の長男で、顔立ちも整っている。背は高いし、性格も悪いわけではない。年もそこまで離れておらず、エレナに釣り合っている相手といえた。
 しかし、そんな完璧な婚約者でも、エレナは彼を好きだと思ったことが一度たりともなかった。
 エーヴェルトと結婚したら、これから先も優雅な生活が保証されるだろう。それでも、そこに幸せはないとわかっているからこそ、エレナは彼との婚約を解消したかった。
「まあ、確かに私もエーヴェルト様がエレナ様に合っているとは思いませんが」
 サニーが小声で呟く。
「そうでしょう? 第一、純血主義なんてもう古いのよ。今や、貴族の半分がどこかで庶民の血が混じっているのではなくて? これから先も、どんどん純血ではない貴族が増えていくわ」
「……あ、そういえば。本当かどうかはわかりませんが、王太子様が庶民の娘と婚約するって噂が流れているようですよ」
「なんですって?」
 サニーから聞かされた情報に、エレナは目を瞠る。
「サニー、エーヴェルト様の家に行くわ! すぐに準備をしてちょうだい」

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