
イラストルシヴィオ
「だったら、一度試してみる? 女のカラダの翼とオレたちのカラダの相性をさ」──大学のマドンナを射止めるために飲んだモテ薬のせいで、なぜか女の子になってしまった翼。しかも周りは翼を生まれたときから女の子だったと信じて疑わない。女の子になってから危ない目に遭ってばかりの翼を助けてくれたのは、幼馴染みの伊吹と翔悟だった。ある日翼は、二人から「ずっと好きだった」と打ち明けられ、さらにとろとろになるまで気持ちよくされてしまう。男だったことを打ち明けても「そんなの気にならない」と言う二人に、男に戻りたいはずの翼の気持ちは揺れ動いてしまい……? 二人の幼馴染みから愛される、甘い三角関係の結末は──
午前七時。目覚まし時計がけたたましく鳴り出すと同時にボクはベッドから飛び起きる。
そして、けたたましく鳴り続ける目覚ましを止めると二階にある自分の部屋を飛び出して、一階にある洗面所へと駆け込む。
「き、今日こそ……お願いします。どうか……どうか」
ボクは心の中で、神様、仏様、すべての神様に祈りつつ洗面所にある大きな鏡に自分を映してみる──。
「…………ああ。や、やっぱり……だめだったか……」
ボクは鏡に映った自分の顔を見て絶望の深い谷へと落ちていく気分だった。
「予想はしていた……。していたけど……」
ヘナヘナと洗面台に手をかけたままその場に座り込む。冷たい洗面台に額を押し付け、ボクはしばらく動けずにいた。
「こら、翼(つばさ)。そんなところで何してるの? 毎朝、騒々しいったらありゃしない。もう、あんたも二〇歳(はたち)の女性なんだから、もう少し女らしくしなさいっ」
洗面所のドアが開き、ひょっこりと顔を覗かせた母さんがボクに向かってちょっと怒ったように言う。
「母さん何度も言ってるけど……ボクは女じゃなくて、本当は男なんだってば」
ボクの言葉に母さんは飽きたように、大きくため息をついた。
「まったく、この子はなにバカなこと言ってるの? 翼、ちゃんと鏡を見てみなさい。どこからどう見ても、あんたは女の子じゃない」
「だから、それは……じいちゃんからもらった薬のせいで」
「夢みたいなこと言ってないで、早く顔洗って大学行く準備しなさい。お母さんはあんたの寝言に付き合ってるほど暇じゃないのよ」
母さんはそう言うと、「忙しい、忙しい」と言いながらボクを放ってキッチンへと戻って行った。
ボクは仕方なく立ち上がった。鏡には女性になったボクが映っている。
ボクこと、八神(やがみ)翼は二〇歳。都内にある帝都(ていと)大学に通う大学生。信じてくれないだろうけど、ボクは一ヶ月前まで男として生きていた。
けれど、ある事件……? いや、ある薬を飲んだ翌日、目を覚ましたら女になっていた。
そして、どういうわけか周りの人間までボクを生まれた時から女だと思っている、というふうになっていた。
女になった一日目。ボクは混乱して大騒ぎした。母さんはボクを遅い反抗期になったと言って大泣きするわ、父さんは心療科へ連れていこうとまでした。
ボクは生まれた時は男だったと何度言っても両親は信じてくれなかった。母子手帳も見せてもらったけど、いつの間にか性別は「女」と表記されていた。
ボク自身、何が何だかわけが分からず三日間はショックのあまり熱を出し寝込んだ末、その後数日は自分の部屋に閉じこもり他人と会うことすら拒絶した。
一ヶ月前、ボクの運命をここまで大きく狂わせた事件とは──。
* * *
都内の国立大学でも偏差値が高いと有名な帝都大学に必死の思いで勉強して入学することができたのが、ボク……八神翼。
帝都大学への進学でC判定をもらっていて、進路指導の先生からは他の大学を勧められていた。
イラスト龍胡伯
「いつまでも昔のままでいられるわけないだろ」──小さな商店街にある酒屋の看板娘・美月と、大手不動産会社に勤めるエリート・佑真は小学一年生のころからの幼馴染。背も伸びエリート街道を走るようになっても、佑真はちょくちょく美月の店に顔を出す仲。しかし、商店街が再開発でショッピングモールに!? その計画を進めているのが佑真の勤める会社だと知った美月は愕然。佑真に「あんたなんか大っ嫌い!」と思わず口にしてしまう。美月は商店街を守りたいと必死に頑張るが……。二十年以上、近くにいた佑真と初めて感じる心の距離。ずっと変わらない想い、変わらないと進めない関係──幼馴染との不器用な恋をほどいて……