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蕩ける極甘聴取は腕の中~検事 久賀丞已~

  • 作家久保ちはろ
  • イラストマリエ
  • 販売日2019/7/19
  • 販売価格500円

幼いころとある事件で心に深い傷を負った女性刑事・篠塚雅季は半年前、敏腕検事の久賀丞已から「恋人になってほしい」と告げられていたが、その言葉を素直に受け入れられず関係は曖昧なまま。だが、トラウマの原因となった事件に深く関わり、そして触れられるのに嫌悪感も恐怖もなく、一度だけだが優しく献身的に包み込んでくれた久賀の存在は雅季にとって特別でもあった。多忙なふたりの久しぶりのデート。久賀が優しく接してくれるのは、心の傷に囚われている自分への『厚意』なのだと考えこみ素直に動けない雅季。しかし、とうとう久賀は甘い聴取でその心を蕩かして──エリート検事の執愛は溢れ続けて止まらない──

一話
 鳴海東(なるみひがし)署刑事部第一課に籍を置く、唯一の女性巡査部長である篠塚(しのづか)雅季(まさき)は、上司である課長、始関(しせき)晃穂(あきほ)の話を聞き終えると、デスクに戻り、小さくため息をついた。
 それを耳ざとく聞きつけたのだろう、向かいで書類整理をしていた青鞍(あおくら)沙武(さむ)が顔を上げた。
「何かまずいことでもあったんですか?」
 彼も雅季と同じく巡査部長、二十七歳。身長は159センチの雅季よりもやや高いくらいだが、体脂肪率12パーセントを誇り、その辺りは意識してアピールしているのか、大抵体の線が映えるようなタイトなスーツを着用していた。いつも溌剌としている。彼が病欠した記憶は一度もない。古株の刑事たちからは『体力馬鹿』とからかわれる青鞍が、実は鋭い洞察力の持ち主であることを、雅季は知っていたし、非常に信頼もしていた。
「いえ別に……。根古利(ねこり)さんがギックリ腰でしばらくお休みだというので、当座は始関さんと組むことになっただけです」
「そういえば、この休みで部屋の模様替えをするって言ってましたからね。若くて可愛い奥さんの手前、張り切っちゃったんですね、きっと」
「あ、それに本厄ですし。でも、早く良くなるといいですよね」
 有給休暇は自分同様、数日使ってもお釣りが来るほど残っているはずだ。しかし、先輩で、相棒の根古利の代わりに一課長と組むとは思ってもみなかった。根古利にはこの機会にゆっくり養生してほしいと思う反面、やはり早く戻って来てほしいというのが本音だった。
 雅季がパソコンのフォルダから作成中の書類を開いていると、「あれ」と青鞍が呟く。
「どうしました?」
「じゃあ篠塚さん、久賀(くが)検事と組むんじゃないんですね。あ、でも、そしたらもっと嬉しそうな顔してますよね」
 雅季は青鞍の言葉に、一瞬息をのんだ。
 刑事ドラマなどの影響で、警察は厳しい階級社会であるというのは一般に広く認知されているようだが、山間の鳴海東署は規模が小さいせいか、田舎の警察署だからか(それとも両方だからか)、上下関係において過剰な緊張はあまり感じない。ただ、青鞍の、思ったことをすぐに口に出すという率直すぎる性格については、雅季は普段から気にはしていた。
 雅季は軽く咳払いをし、戒めるように後輩を軽く睨んだ。
「ちょっと待ってください。なんで久賀さんなんですか。それに嬉しいわけないじゃないですか、捜査にいちいち検事に指示されるのがどれだけ煩わしいか、青鞍さんでもそれくらいわかりますよね。だいたい、以前、久賀さんと共同捜査したのは前代未聞、例外中の例外です」
 雅季は過去に、やはり根古利の不在中、久賀と組んで事件を解決したことがあった。
 しかし、同じ事件を捜査するにも、警察と検察の間にはやはり見えない壁があるのは事実だ。
 検察には指揮権というものがあり、検察官は独自に捜査を行うことはもちろん、警察機関に対しても、具体的な捜査の方法を指示することができる。そして、検察から指示があった場合、警察はこれを拒否することはできないため、必ず従わなくてはならない。
 基本的には、警察と検察はそれぞれ独立した別の組織であり、双方の関係に上下はないが、こうしたこともあって、一般の警察官の中には、検察に対してあまりよいイメージを持っていない者も多数存在する。
 青鞍は雅季の剣幕の前にも、まだ顔を綻ばせたまま肩をすくめた。

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