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美麗な公爵様のアプローチは溺愛糖度が高すぎです

  • 作家熊野まゆ
  • イラスト緋月アイナ
  • 販売日2019/05/14
  • 販売価格400円

巫女見習いのラティーシャは男性不信だった。どこへ行くにも不埒な輩が現れ、こわい思いをしてきたからだ。一日の役目を終えて寄宿舎への帰り道、道端に倒れている者を見つける。多額の寄付をしてくれている公爵のマティアスだった。とはいえ不調の理由は酒のようで、介抱しなくてもよさそう、なんて思っている間に言葉巧みに誘い込まれ、マティアスの邸に入り、そしてあろうことか夜を明かしてしまう。なにもなかったことにホッとしたのもつかの間、マティアスはいきなりラティーシャに結婚してほしいとプロポーズを。驚くラティーシャだが、紳士なようで恥ずかしい誘いをしてくるマティアスと接しているうちに、心は次第に傾いていって――

序章 行き倒れの公爵
 見上げたヴォールト天井は背丈の何倍先にあるかしれない。遠くに見えるその穹窿(きゅうりゅう)には萌黄色の蔓薔薇とともに天の使いたちが描かれている。
 圧倒的な高さを誇る空間の突き当たりには連続したアーチ窓が配され、そこから射し込む陽光が神体を照らすと、その彫像は眩く光り輝いた。それは、見る者に神の存在を濃く印象づける。
 銀の髪に翡翠色の瞳を持つ乙女は神の御前に跪き、両手を胸の前で組み合わせて祈りを捧げた。そうすることで、神の御心に寄り添おうとした。
 ノマーク神国の中枢、ユマノマク神殿の一角で、銀髪の乙女──巫女見習いのラティーシャ・カトラーは巡礼者に護符を授ける。
「あなたに神のご加護があらんことを」
 彼女がほほえむと、巡礼者は「ほぅっ」と感嘆した。その美しさにはだれもが息をのむ。
 透けるような白い肌は瑞々しく、腰まである銀色の長い髪は見るからに指通りがよさそうだ。瞳は宝玉の翡翠を思わせる鮮やかな緑である。
 巫女見習いのラティーシャは装飾のない質素なクリーム色の長衣を着ている。幼気(いたいけ)な雰囲気を残しながらも女性らしさを兼ね備えたラティーシャは人目を引き、神殿の華と謳われた。
「──お疲れ様でした」
 護符の配布を終え、神殿内をくまなく掃除したラティーシャは先輩の巫女たち一人一人に挨拶をして帰路についた。
 彼女は見目こそ華美だが仕事には堅実かつ地道で、同僚や先輩への気遣いも怠らない。常に最善を尽くし、真面目にコツコツと物事をこなしていく。
(ああ……早く一人前になりたいわ)
 そんな彼女の目標は、見習いから昇格して巫女になることだ。
 ラティーシャには複数の異母兄妹がいる。兄妹がたくさんいることはよいのだが、次から次に女性を連れ込む父親に嫌気がさして実家を飛び出したのだった。
(巫女になれば、神殿の中に住める。俗世ともサヨナラよ)
 巫女見習いのラティーシャは、いまは神殿からほど近い宿舎に寝泊まりしている。神殿へ通うのが面倒だと思ったことはないが、いままで外を歩くとろくな目にあってこなかったラティーシャには、この通い道に戦々恐々としている。
 ラティーシャは周囲を警戒しながら夜道を歩いていた。
「……?」
 ふと立ち止まる。
 道端に男性が倒れていた。身なりからして、かなり高位の貴族だ。
(……どうしましょう)
 いや、迷っている場合ではないのかもしれない。もしも、心臓発作というような病でそこに伏せっているとしたら、一刻を争う。
 だがラティーシャはどうしても尻込みしてしまう。彼女はいわゆる『男性不信』なのだ。
(でもやっぱり……巫女として、見て見ぬふりはできない)
 貴族がたったひとりで道端に倒れているなんて不審極まりないと訝しみつつも、意を決し男性に近づく。
「あの……どうなさいました?」
 声をかけると、金髪の男性がわずかに顔を上げた。
「……気分が、優れなくて……休憩していた」
 道の真ん中で、うつ伏せに倒れて休憩していたのか?
 唖然とするラティーシャを金髪の男性の碧い瞳が捉える。すると、彼の目がとたんに見開いた。ラティーシャは後ずさる。
(この男性(ひと)……お酒くさいわ)
 泥酔しているだけなら放っておいてもよいかと思ったが、このままでは馬車に轢かれて帰らぬ人になってしまうかもしれない。
 ラティーシャはしばし逡巡したあと、「お家はどこですか。お送りいたします」と提言した。すると、男性はすぐ近くを指さした。その先にあるのは神殿にも負けず劣らずの広大な建物──。
(ここは、たしか……シュバルツ公爵邸?)
 かの公爵は神殿に多大な寄付金をもたらしてくれる。シュバルツ公爵には会ったことがなかったが、もしかしてこの──無防備に道端に倒れている奇怪な──男性が、そうなのだろうか。
 ラティーシャはおそるおそる尋ねた。
「もしや、マティアス・エルフォード、シュバルツ公爵さまでいらっしゃいますか?」
 虚ろだった男性の瞳に光が宿る。
「ああ……。俺のこと、覚えていてくれたのか」
 うっとりとしたようすの公爵を尻目にラティーシャは首を傾げた。
 どこかで会ったことがあっただろうか。
(護符の配布のときかしら……? でも、公爵さまならわざわざ配布の列に並ばずとも受け取れるはず)

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