夢中文庫

一途な年下男子の包容力にまるっとつつみこまれました

  • 作家黒田美優
  • イラストワカツキ
  • 販売日2019/03/01
  • 販売価格300円

瑞希は高校一年の時に経験した失恋から恋に臆病になってしまった。だから二十六歳になった今でも未経験でカレシもいない。それでもいいと思っていたのに、営業に異動してきた年下の澤井の告白によって事態は一変。捨てられたくない、傷つきたくない、そんな思いから交際の申し出を断るも澤井は引かず、強引に友達から始めることになってしまった。チャットに電話……思いのほか楽しい。膨れてくる澤井への想いから、瑞希はなぜ交際を断ったのか、その理由を告げる。すると澤井は、簡単には別れられない交際をしないかと提案してきて……それはズバリ結婚。澤井の気遣い、強引だけど優しい、健気で本気の想いに瑞希は胸打たれる

第一章 初恋の呪い
 忘れられない恋がある。
 高校一年生の時に初めてできた彼氏。
 二歳年上で、私とは違ったタイプの人だった。
 その人の周りにはいつも人がいる。少し素行が悪いのに、教師からも信頼を得ているような人だった。
 私はというと、黒い髪に大きな眼鏡。制服を学校指定通りに着こなしていた。きれいともかわいいとも言いにくい容姿。
 明るくてカッコいい彼とは正反対の人種。
 けれど、ひょんなことからよく話すようになり、突然彼に告白されてお付き合いすることになった。
 今思い返しても、どうして付き合うことになったのか覚えていない。でも、根暗な私が明るくて人懐っこい彼を好きになることは何も不思議じゃなかった。
 ただ彼は……きっと気の迷いだったんだろう。
 だって半年も経たないうちに二股をかけられ、彼からは謝りの言葉も、別れの言葉もなく、捨てられてしまったのだから。
「久しぶりに、嫌な夢みたなあ」
 目を覚まし、ベッドの上で身体も起こさずに呟いた。
 憂鬱な気持ちで見慣れた天井を眺める。
 私、友田(ともだ)瑞希(みずき)は今年で二十六歳だ。
 恋人は十年間いない。
 初恋であっさりと捨てられて以来、男性を信じることができないまま時間だけがすぎていた。
「そろそろ起きないと」
 いつもより五分も遅い起床となってしまった。
 とはいえ、遅刻する心配はないけれど。
 上体を起こし、ベッドから足を下ろした。サイドテーブルに置いていた眼鏡に手を伸ばす。
 眼鏡をかけたついでに、鏡を見るとパッとしない顔の私がいた。あの時から変わらず、黒髪を長く伸ばし、丸い眼鏡をかけている。
 あんな夢を見たのもきっと最近異動してきた『部下』のせいに違いない。
 身支度をして、朝食もそこそこに家をあとにした。
 結局いつも利用している電車に乗ることができ、一番乗りで出社する。
 ビルのエントランスをくぐり、エレベーターが事務所のあるフロアに到着した。扉が開くと、いつもはない人影があった。
「友田さん!」
 明るい声で名前を呼ばれた。
「澤井(さわい)くん……こんなに早くどうしたの?」
 澤井慎一(しんいち)くん。
 先週販売から営業に異動してきた子だ。
 歳は二十三歳で、身長が私の頭ひとつほど高く、艶やかな短髪をワックスで整えている。
 清潔感もあって、ふとした笑顔に好感がもてる。
 取引先からも好評だ。
「俺、早く出勤して書類整理でもしてようと思ったんですが、管理人さんがいなくて扉の開け方がわからなくて。友田さんはいつもこの時間に?」
「まあね」
 私は扉のパスワードとカードキーの場所を教えた。
 彼にほほ笑まれるとたじろいでしまう。
 明るい性格や誰からも愛される姿に、昔の『彼』と重ねてしまい、どこか苦手だと思っていた。
 それが澤井くんに申し訳ないことだと思いつつもぎこちなさが態度に出ないように気をつけている。
 私が事務所の鍵を開けると、澤井くんも続いて入ってきた。
「あ、友田さん」
「どうかした?」
 振り返り、小首を傾げる。
 彼の顔を改めてみると、整っているなあと思う。
 前髪を後ろに流しているので見える長方形の額、二重の大きな瞳、口角が自然と上がった唇は見るとドキッとしてしまう。
 その唇が動く。
「俺、今日も友田さんと外回り頑張ります!」
「そう、ね。頑張りましょうね」
 私はたいしたリアクションもできず、自分の席へ逃げるように向かった。
 彼は私にとって初めての部下である。
 私の仕事はペットフードの営業で、ペットショップを車で回ること。
 飛び込み営業などはほとんどなく、決まった取引先に商品を納品したり、新商品をおすすめしたりするルート営業だ。
 今はその件数が多く、人手が足りないため澤井くんを販売から引っ張ってきたらしい。
 上としては、彼を早く一人前にしたいそうだ。
 そこで私を指導係に任命してくれたことは、頼りにされているようでうれしい。だからこそ、彼を立派に育てたい思いはあるのだけれど……。
 私は机の上に溜まった発注書を整理しながら、ため息をついた。

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