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海辺の町の愛~銀髪伯爵の微笑と失われた乙女の記憶~

  • 作家黒田美優
  • イラスト蘭蒼史
  • 販売日2019/04/23
  • 販売価格500円

病院のベッドで意識を取り戻したエミリアは、声と記憶を失っていた。そこにオリーブ・マルティス伯爵と名乗る褐色の肌と白銀の髪の美青年が現れ、海辺で倒れていたところを助けたのだと言う。困惑するエミリアにオリーブは優しく微笑み、屋敷で静かに暮らすことを提案する。甘えていいの? 戸惑うエミリアだが、他に身を寄せる場所がない。申し訳なく思いつつもオリーブの世話になることを決める。オリーブが浮かべる優しい微笑に、エミリアの心は癒やされ、いつしか強い愛を自覚するようになる。そんなある日、エミリアは自分にうり二つの少年に声をかけられる。彼はなんと、オリーブが父の仇だと言い、彼の命を奪えと迫ってきて――

 少女が目覚めて一番初めに見たものは真っ白な天井だった。
 頭には柔らかな枕。体には白くて清潔な布団がかぶせられていた。
(ここは……?)
 カーテンで仕切られた部屋に、かすかな波音が響いている。
 少女は体を起こそうとした。
(いた……)
 それでも体を起こすと、簡素な病衣の下の腕や腹に包帯が巻かれている。
(体が……痛い……? それに……あれ? なにも思い出せない)
 窓に少女のしかめっ面が映る。
 金糸のように鮮やかな長い髪。白い肌。色素の薄い睫毛は長く、上向きにカールしている。そして、空色の瞳は、窓の外に広がる海を映していた。
(きれい……)
 海の上を白い鳥が飛び、鳴いている。少女は光景に感動しながら、どこか寂しげに水面のきらめきを眺めていた。
「おや」
 声に反応して振り向くとカーテンの隙間から男が顔を覗かせている。
 少女は驚いて息を呑む。
(この人……誰? それにこの容姿……)
 男を見据えたまま、表情には警戒を色濃く表し、掛け布団を引き寄せた。
 男はその様子を見ても、柔和にほほ笑むだけだ。ベッド脇に備えられている椅子に座り込む。
 少女は男を頭の先から足の先まで見た。
 男に警戒心を抱くのも無理はない。
 見た目は二十代半ばと若いが、老人のように真っ白な髪を腰まで伸ばし、後ろでひとつにまとめている。褐色の肌に、鮮やかなエメラルド色の瞳。白いシャツに黒のベストの装いはシンプルで清潔感がある。
 だが、ループタイにつけられた金細工の留め具がそれなりに身分がある人と表していた。
(とてもきれいな人だわ。緑の瞳が宝石みたい)
 少女は、戸惑いながらも口を開く。
「……っ」
 しかし、声は音にならなかった。
 少女は戸惑い、自然に両手で喉を押さえる。
(嘘……声がでない)
 ニコニコとほほ笑む男は、少女の異変に気付いたのか眉を寄せた。
「どうかしたのかい?」
 きれいな落ち着く声だった。
 少女は喉を押さえたまま、首を左右に振った。
「もしかして、声がでないのかい?」
 少女は頷いた。男の表情が曇る。
 男はもう一度立ち上がると、カーテンの外へ出ていってしまったが、しばらくすると、戻ってきた。その手には革製の手帳とペンが握られている。それに従者のような、燕尾服を着た男を後ろに連れている。
 燕尾服の男は対照的で、黒い髪、黄色味がかった肌、人形のように無表情で目を伏せている。
「文字なら書けるかな?」
 男はそう言って少女に手渡した。
 手帳は男の瞳の色より少し濃い深緑色だ。少女がこくりと頷いて、真新しい手帳のページを開き、ペンを握った。
『あなたは誰ですか?』
 男は手帳を覗き込み、柔らかくほほ笑んだ。
「僕はオリーブ・マルティス。伯爵で、領主をやっている。領主と言っても小さな港町だ。気軽にオリーブと呼んでくれてかまわないよ」
 少女は手帳に『オリーブ?』と試しに書いて首を傾げた。すると、オリーブは満足そうに頷く。
「そうだよ、合ってる」
 その様子を見て燕尾服の男が何か言いたげに眉をひそめる。
 しかしオリーブが燕尾服の男を見上げると、眉間のしわを伸ばした。
「無言で何かを訴えなくていいよ。僕が気軽に、って言ったんだからいいじゃないか。それで、この無口な男がエディだ。僕の執事で、身の回りのことをすべて任せている。完璧主義で潔癖性だから、助かっているよ。……無口だけどね」
 オリーブは一人クスクスと笑ったが、少女とエディは表情を崩さないでいた。
 少女には笑う余裕などなかった。聞きたいことがたくさんあったのだ。

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