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百合の恋香に誘われて~蜜姫たちの不均衡な執愛~

  • 作家マイマイ
  • イラストはるしおん
  • 販売日2017/12/26
  • 販売価格600円

【ガールズラブ作品】苛めようと思ったけど優しくしてあげる――全てに優れていること、アリサの生家はそれが家族の最低条件。劣等感で仕事が上手くゆかず辞表を叩きつけた夜、アリサはバーで破天荒な女の子と出会う。というより一方的に懐かれた?舌っ足らずで甘えた声の花梨は奔放に体の関係を持っては飽きてさようなら。なんなのこの子。放っておけないアリサは花梨を招き親切にするが、むしろ花梨の癇に障ったようで……。体をまさぐって意地悪し、体を提供して寝食を確保する、そんな花梨からいいように快感を与えられるが、アリサは花梨を愛しはじめる。守りたくて悩むアリサ、守られ慣れず混乱する花梨。ちぐはぐな恋は悦楽を超える――?

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 柔らかなぬくもりのある唇が、そっと首筋に押し付けられた。
 あまりにも優しい感触に、なぜだか泣きたくなるような感情がこみ上げてくる。
 許されるならすべてを捨てて逃げ出してしまいたい。
 うまくいかない現実からも、大嫌いな自分自身からも。
 そうすれば、何かが変わるかもしれない。
 どこか別の場所で、新しい人間に生まれ変わって生きられたら。
 意味のない現実逃避。
 くだらない。
 自嘲気味な笑いを浮かべながら、緋山(ひやま)アリサは机の上に立て掛けられた楕円形の鏡にちらりと視線を向けた。
 化粧を落としたせいか、目元に疲れが目立つ。
 ストレスで荒れた肌や無造作に束ねた髪のほつれ具合も合わさって、二十六という実年齢よりもずっと老けて見える気がした。
 顔のパーツが無駄に派手なせいで他人からは美人だと言われることもあるが、自分の顔が好きだと思えたことは一度もない。
 その真横では、桃野(とうの)花梨(かりん)が絵画の中から抜け出してきた可愛らしい少女のようにあどけなく微笑んでいる。
 降り積もったばかりの雪を思わせるような白い肌、長い睫毛にふちどられた大きな瞳、桃色の頬、赤く濡れたような艶のある唇。
 少し癖のある薄茶色の髪は胸が隠れるほどの長さで、ふんわりとした自然な螺旋を描いている。
 後ろからアリサの肩にまわされた腕は小枝のように細く、少しでも余計な力を加えると簡単に折れてしまいそうだった。
 体に巻き付けてあるバスタオルからのぞく豊かな胸のふくらみがなければ、まだ幼い子供のようにも見える。
 とてもアリサと三つしか変わらない年齢だとは思えない。
 けがれを知らない純粋無垢な女の子。
 そんな外見を持つ彼女の中身が少しも純粋ではないことを、アリサは嫌というほど知っていた。
「ねえ、まだぁ? もう真夜中だよぉ、早く寝ようよぉ」
 甘えるような愛らしい声に耳をくすぐられる。
 ああ、もう。
 気が散って考えがまとまらない。
 アリサは苛立ちをぶつけるように花梨を睨みつけ、絡みついてくる腕を振り払った。
「先に寝てって言ったでしょう。明日は仕事の面接があるから、早くこれを仕上げなくちゃいけないの」
 机の上には書きかけの履歴書。
 特技や自己PRの欄になるといつも何を書けばいいのかわからなくなり、途中で手が止まってしまう。
 花梨はいかにも不満そうな様子でため息をつきながら、またアリサの背中にぴったりと自分の胸をくっつけて抱きついてくる。
「やだぁ、つまんなぁい。そんなの明日の朝書けばいいでしょ」
「そんなわけにいかないわよ。お願いだから邪魔しないで」
 花梨を無視して続きを書こうとすると、今度は乱暴に履歴書をひったくられ、これ見よがしにびりびりと破られた。
「はい、おしまーい。これで一緒に寝られるよねぇ?」
 花梨は誇らしげにそう言い、両手を頭の上にあげてパッと開いた。
 ただの紙屑と化した履歴書が、ひらひらと床の上に舞い落ちていく。
 何度も書き直したせいで予備はもうない。
 あっけにとられるアリサの前で、花梨はきゃあきゃあと笑っている。
「か、花梨! いったい何を考えて」
「あはは、アリサちゃんが悪いんだよぉ。花梨と遊んでくれないからぁ」
「ワガママもいい加減にしなさいよ! ぐずぐずいうなら、いますぐここから出て行っ……」
 続きを言わせまいとするように、花梨が素早く唇を重ねてきた。
 いまだに慣れることのできない女同士のキス。
 男にされるのとは違う、繊細で優しい粘膜の触れ合い。
 衝撃と甘酸っぱいような快感、それにほんの少しの罪悪感がつきまとう。
 一瞬で頭の中が空白になり、怒りも苛立ちも吹き飛ばされる。
 どこか遠慮がちに差し入れられた舌先は、何かを探し求めるようにゆっくりとアリサの口の中を撫でていく。
 だめだ、と思う。
 こんなことをしている場合じゃない。
 花梨のペースに巻き込まれてはいけない。
 そう思いながらも、アリサの手はいつのまにか花梨の背中を優しく撫でてやっていた。
 強い酒を無理やり飲まされたときのように、体の芯が熱く痺れてくる。
 とくん、とくん、とふたりの鼓動が重なり合っていく。
 自分に必要なものはこれだったのかもしれない、という錯覚が起きる。
 違う。
 これはただ、花梨がふざけただけ。
 深い意味なんてどこにもない。

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