夢中文庫

冷徹専務の焦愛~恋に臆する私があなたに攫われるまでのこと~

  • 作家鞠坂小鞠
  • イラスト南雲ジュリ
  • 販売日2019/10/4
  • 販売価格800円

「手放す気はないと言ったはずです」――欠員補充のため、総務課から秘書課に異動した知尋。ようやく仕事にも慣れてきたそんな頃、社長室に呼び出され……お見合いをセッティングしてあげる代わりに、気難し屋で有名な専務・成嶋の専属秘書に就いてほしいと告げられる。成嶋専務といえば、整った顔に厳しい表情。第一印象は怖いのひと言に尽きる人物。あの……私、婚活してません……。と否定できないまま、不安を抱えつつ専属の任を受け入れる知尋。周囲は口を揃えて「秘書として最低限の仕事をこなせば大丈夫」と言うが、ある日成嶋の目のくまが気になり、つい干渉してしまう。そんな知尋に、成嶋の態度は少しずつ変わり始め――?

第1章 生贄に選ばれまして。
 困った。
 私──登坂(とさか)知尋(ちひろ)は、思わぬ事態を前に背筋を凍らせていた。
「確か登坂さんは婚活してるんだったよねぇ。それなら、なおのこと悪い話ではないと思うんだよ」
 九月に入って初めての金曜、時刻は午後四時三十分。場所は、こぢんまりとした、けれど手入れの行き届いた小部屋──社長室。
 小さな窓から差し込んできた西日に淡く照らされる床へ、ぼうっと視線を移す。この頃は少しずつ日が短くなってきたなぁ、などと現実逃避してしまいたい気持ちを持て余しながら、私はかけられた言葉を脳裏でひたすら反芻(はんすう)していた。
 咄嗟にはなにも返せず、私はすっかり固まってしまっていた。
 その沈黙を、社長は肯定として受け取ったらしい。にこやかな笑みを浮かべ、自分の提案を良策と言わんばかりに話を進めていく上機嫌な社長に、私は結局、口を挟むこともできずに曖昧に微笑み続けるしかできなかった。

 発端は、同僚の秘書課スタッフが退職したこと。
 今からおよそ三ヶ月前、六月半ばのことだ。その穴を埋める要員として、私は、就職以来七年近く籍を置いてきた総務課から秘書課に異動となった。
 総務課も秘書課も、人事部という大きな括りこそ変わらない。とはいえ、長年総務課で経理を担当してきた私にとっては、秘書課の事情も仕事内容も未知の領域だ。
 早く仕事を覚えなければと日々必死にメモを取り、先輩スタッフに付き添って仕事を見せてもらい……やっとのことで、補佐的な業務を遜色なくこなせるようになってきたところだ。
 そんな折、なぜか今日、やたらとにこやかに笑みを湛えている社長にポンと肩を叩かれた。
 おそるおそる足を踏み入れた先は社長室。社長は、早々に私をソファに促した。
 座らせた、ということは長くなるのかもしれない。なにを言われるのかと困惑を深めつつも、せめて表面上だけでも平静を保たねばと、私は意識して口角を上げてソファに腰を下ろした。自らも対面に座った社長は、異動してからのことについて私にあれこれと尋ねては、やはりにこやかに話を進めていく。
『いやぁ、登坂さんは仕事を覚えるのが早いね』
『秘書、経理の仕事よりも向いてるんじゃないかい?』
『人のサポート、元々上手だよねぇ』
 ……妙に褒めそやしてくるなぁ、と訝しく思ってはいた。
 しかし、半端な作り笑顔を浮かべて相槌を打っていた私は、それらの言葉がなんのための前置きだったのか、その意味を直後に思い知る羽目になってしまった。
「登坂さんには成嶋(なるしま)専務の秘書に就いてほしいんだ。来週、彼、長期出張から戻ってくるからね」
 作り笑顔を浮かべたまま、私は露骨に頬を引きつらせた。
 社長はといえば、私の反応などあらかじめ予測済みだったらしい。浮かべた微笑みをわずかにも崩さず、彼は沈黙をもって私の返答を待っていた。

オススメ書籍

急転直下!~年下幼馴染は肉食獣に豹変する~

著者永久めぐる
イラスト雪乃つきみ

「お願い! 住むところが見つかるまで居候させて!」四歳年下の幼馴染・小暮誠人からかかってきた突然の電話。彼は何年も前から渡米していたが、急きょ帰国が決まったらしい。しかし、手違いで住むところがないと言う。仕事でもプライベートでも頼まれごとに弱い美鈴は、渋々ながら同居を許可したけれど……。久々に会った誠人は見惚れるほどに格好よくて、昔の面影も見当たらないくらいに大人の魅力を漂わせていた。しかも、彼はとんでもなくスキンシップ過剰で、美鈴をひどく翻弄する。――幼馴染という気楽な関係を壊したくないのに、誠人君はどうして変わろうとするの? 意地っ張りOLと策士な幼馴染の、甘くて切ない攻防戦の結末は……?

この作品の詳細はこちら