夢中文庫

甘えたいのはあなただけ

  • 作家真崎奈南
  • イラスト
  • 販売日2018/10/12
  • 販売価格400円

化粧品会社の広告宣伝部で働く真結実は、六年前に彼氏と別れてから仕事に没頭する日々を送っている。プライドが邪魔し強気に振る舞ってはいるけれど実際は打たれ弱く、しばらく男っ気がないことを指摘されただけで、ひと気のない社内の一室でめそめそしてしまうことも。真結実がそんな自分を唯一見せられるのは、同期の加治川だ。苦しいとき隣にいてくれる彼に、真結実は密かな恋心を抱いていた。ある日、加治川が新ブランドの広告デザインチームのチーフを任されることになる。真結実は加治川の力になりたくてチームへの参加を希望するが、加治川に思いを寄せる同じ課の女子も名乗りを上げ……。そして真結実を慕う後輩男子も邪魔してきて――

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一、同期の彼には敵わない
「佐原(さはら)、お疲れ」
 来季の商品広告に関しての白熱した会議を終え、ミーティングルームを出たところで、後ろから何かで後頭部を突っつかれた。
 振り返り真っ先に視界に入ってきたのは一本の黒いペン。そしてその向こうに、得意げに笑う加治川(かじかわ)の顔があった。
 文句の一つでも言ってやろうかと思ったけれど、ついさっきの打ち合わせでの皆を唸らせた説得力ある発言や、思わず支持したくなるような熱意のある表情を思い出し、私は臨戦態勢を解いて肩の力を抜く。
「お疲れ様……ほんと加治川はさすがだよ。A案でほぼ決まりかけてたっていうのに、一言でひっくり返されちゃった」
「仕方ないだろ。どう考えても、A案よりB案の方が目をひくし、そっちの方がキャッチコピーがより映える」
 私、佐原真結実(まゆみ)と目の前で苦笑いしている彼、加治川修(おさむ)は、共にアルストロメリア化粧品の広告宣伝部で働く仲間で、同期でもある。
 彼は私たち同期の中でもずば抜けて優秀で、入社当初から仕事において常に私の一歩先を行く男である。
 今日だって、いくつかのポスター案の中から私が推していた広告ポスターデザイン案と後輩の案が残り、そこからの最終決定がとても難航していたのだけれど、他グループとのミーティング終わりから参加した加治川の一言で、後輩が出した案にすんなり決定してしまったのだ。
「でもまあ、お前が推してたやつに決まったとしても、良いポスターにはなっていたと思うけどな」
 視線を落としながらさらりと言葉を追加させた加治川の横顔に、魅入ってしまう。
 彼の中からごく自然に出てきたと感じられる言葉に、胸がじわりと熱くなっていく。
「……加治川、ありがとう」
 正直、悔しかった。
 けれど打ち合わせ中、今回の商品ターゲットである二十代の働く女性に向けたあと一押しがA案には足りないと自分でも感じてしまった時があったのだ。
 加治川の選択が正解だと思えたからこそ、悔しくて泣き出してしまいそうになっても、最後まで耐えることができたのだ。
「今度はさすが佐原だなって言わせてみせるからね」
 握りしめた拳で軽く加治川の胸をパンチすると、彼は「いてて」と楽しそうに笑い、私の頭にその大きな手を乗せた。
 顔を近づけて、私の顔を覗き込んでくる。
「そんなセリフ、簡単には言ってやんないけど……少しは楽しみにしてる。頑張れよ」
 上から目線での発言など気にする余裕もないくらい緊張で身体が強張っていく。
 この体勢が気恥ずかしくて逃げ出したいのに、加治川の力強い輝きを宿した瞳からどうしても目が逸らせない。
「そうだ。あのさ……」
 加治川が何かを言いかけると「おい、加治川! ちょっと良いか?」と部長の声が重なった。
 彼の手と顔も離れれば、まるで魔法が解けていくかのように緊張も和らいでいく。
「はい! 今行きます……ごめん。またあとで」
 加治川は私に背を向け、足早に部長へと歩み寄っていった。
 すれ違いざま、女子社員ふたりが「加治川さん!」と嬉しそうに声をかけると、加治川は足を止めることはせずともふたりに軽く手を振って応えた。
 小さな歓声を上げながら加治川を目で追い続ける彼女たちの姿に、ついため息がでてしまった。
 身長は百八十センチを超えていて、体つきはすらりと細くモデルのように足が長い。
 身だしなみも清潔感抜群、中性的でとても綺麗な顔立ちをしていて、おまけに仕事もできるとなれば、女性にモテないはずがない。
 ついさっき彼の手が触れていたあたりにそっと触れながら、部長と話をしているその姿を視界に宿す。
 同期であり飲み仲間でもあり気心が知れた仲だから、こんな風に彼は気軽に触れてくるけど……その度、私は自分の気持ちに振り回されてしまう。
 ただの同期なのだから平然としているべきなのに、温もりに鼓動が高鳴り、嬉しくて気持ちが舞い上がっていく。
 私にとって彼は、社内で唯一素の自分を出せる存在であり、思いは届かないと分かっていても独り占めできたらいいのにと願ってしまうくらい特別な男性なのである。
 そんなことを考えていると加治川と目が合ってしまい、私は慌てて頭部から前髪へと指先を移動させる。
 気まずさを隠すようにぎこちなく視線を逸らし、急いでその場から立ち去ったのだった。

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