
イラストマツモトミチ
小林優衣。29歳。強いふりをして、ひとりでも平気な自分を演出して、恋愛にも結婚にも興味がないような顔をしてきた。これでいいと生きてきたのに、いまさら「彼氏ほしい、結婚したい」なんて言ったら、いままでの自分を裏切るみたいだ。でも、本当は、愛されたいし、可愛いって言われたいし、女らしくしたいと思ってる。洋画のようなロマンスにあこがれながら、違う世界のことだと達観している三十路直前の女。最高にかっこわるくて女子力と無縁の私に、どうしてこんなに可愛くてイケメンな年下の彼が――?「等身大でいいんだよ」と教えてくれる生島くんの、強引だけど優しい態度に、強がりで意地っ張りな私が消えていく……
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まったく、どうかしているわ。
人数合わせ。それも、引き立て役としての誘い。
そうとわかっているくせに、私ってばどうして合コンの誘いを受けちゃったのかしら。
小林優衣(こばやしゆい)。29歳。自慢なのは、サラサラのストレートヘアです。
なんて、ばかばかしい自己紹介をして愛想笑いを浮かべて、挨拶がわりの質問に答えて。
しばらくすれば私に声をかける人なんて、いなくなる。
わかっていたけど、面白くない。
スタイルがいいと言えば聞こえはいいけど、ただ細いだけ。出るとこもそんなに出ていないし。なんていうの? 枝とか爪楊枝とか、なんかそんな感じの貧相な体つき。
肌がきれいと同僚は言ってくれるけど、化粧っ気がないだけ。
面倒くさいから、紫外線対策も兼ねた伊達メガネで顔を隠してる。
自慢の髪の毛だって、カラーもパーマもしていないから、そういうことをしてきた子よりも痛んでいないっていう、ただそれだけ。
こんな女より、可愛げのあるファッションをしている子のほうが、ずっといいに決まってる。
まあ、安く飲み食いできると思えばいいか。
盛り上がっている面々をながめながら、居酒屋の座敷の入り口の隅でひとり、チューハイをあおる。
はー。
早く終わらないかな。
そんなことを思いながら、ぼんやりと過ごした合コンの支払いは、男が8割、女が2割と決まった。
財布から割り当てられた料金を取り出して、幹事に渡す。
飲んだ量の半額以下。
同僚たちといっしょに、ごちそうさまでしたと笑顔で挨拶。これはぜったいに欠かせない、大切な礼儀作法だ。
二次会どうする? カラオケ行こうよ、という声が上がる。
私の役目はここで終わり。ただの人数合わせだし、誰も私になんて興味を持っていないから、帰ってもなんとも思われない。いっぱい飲んだし疲れたから、家に帰ってゆっくり寝たい。
さて。
どう断わって帰ろうか。
いくら人数合わせでも、へんな別れ方をすれば不快な思いをさせてしまう。
さりげなく、不自然にならないように「先に帰るね」と言うためには、やはり「飲みすぎちゃったみたいだから」がいちばんだ。
そのために、たっぷりとチューハイを飲んだんだし。
ふと、ガードレールに腰かけていた人と目が合った。
居酒屋の灯りに浮かび上がったその姿に、ふっと意識を奪われる。
なんだろう。
なにか、ひっかかる。
「やだ、かっこいい」
ちいさな同僚のつぶやきに、ハッとした。
たしかに、かっこいい。
その人が立ち上がり、うれしそうな顔をして近づいてくる。誰かの知り合いだろうか。
足、長い。
丸顔というか、童顔というか。幼い感じの柔和な笑顔が、ちょっと可愛い。茶色のクセ毛はふわふわしていて、やわらかそうだ。触ったら、意外と固かったりして。
そんなことを思いながら見ていると、その人は私の前で立ち止まった。
「えっ」
間違いなく、私を見ている。
背が高い。
誰だっけ?
「僕を嫉妬させるために、合コンに参加したの?」
は?
「えっ。なに……。この人、小林さんの知り合い?」
背後から、そんな声をかけられた。
違いますよ。
振り返って言おうとしたら、強い力で腰を引き寄せられた。
かと思うと、顎に指をかけられる。
「ひどいなぁ」
甘い笑顔に吸い込まれる。
見惚れていると、メガネを奪われた。
顔が近づく。
「んっ」
唇が優しくついばまれて、反射的に目を閉じてしまった。
キスが繰り返される。
ふわふわとして、気持ちいい。
同僚たちの黄色い悲鳴が聞こえたかと思うと、口内にやわらかなものが侵入してきた。
イラストnira.
苦しくて切なくて逃れたいのに愛してしまう。社会人になって初めての恋は三角関係だった。札幌の高校を卒業して男性と付き合うこともなく地味な日々を送っていた私は、職場で出会った高山さんに惹かれていった。朝礼で初めて高山さんの顔を見た時に私の心は揺さぶられて……。美人で有能な彼女がいることを知っても私は高山さんとの電話やメールをガマンできずにいた。一度でいい、たとえ一夜限りでいいから腕の中に抱かれて眠りたいと願ったつもりが一度抱かれてしまうと次の約束を期待してしまう。ベッドの中では好きだとささやいてくれるけど本当は私のことをどう思っているか? 知りたいけど怖くて聞けない。
ご意見・ご感想
編集部
おひとりさまに慣れすぎて、頑張るクセがついてしまって……
という、「おひとりさまこじらせ女子」の優衣さん。
わかるわかる~と思いながら読んでしまいますヨ
(●≧艸≦)゛
女子力が低いことがコンプレックス。
女子力が高めなパステルカラーな彼女たちが羨ましい。
私も可愛いって言ってほしい。
でも、自分がそうなったら笑われるかも……
ぐるぐると考えてしまう優衣さんに共感MAX!!
そんな彼女の前に颯爽と現れた翔くんはまさに、王子様
(●≧∪≦●)
社会に疲れた女子の味方!な作品ですっ♪
是非是非、癒されてください~~~
2016年5月18日 2:12 PM