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恋のしかたを教えて~変わり者の伯爵と純朴な令嬢の恋物語~

  • 作家水戸けい
  • イラスト墨咲てん
  • 販売日2018/4/27
  • 販売価格500円

右目にモノクルをし、あまり表情を変えずに趣味に勤しむテッドは「変わり者の伯爵」と呼ばれている。そんなテッドのもとに嫁ぐことになった田舎育ちの男爵令嬢ランジュは、彼の一挙手一投足が気になり、またそれを面白く感じてしまう。とはいえ相手は伯爵。失礼があってはいけないし、田舎娘の自分が伯爵の妻になることに戸惑いも大きい。なんとか気に入られようとするものの、うまくいっているようには思えない。落胆するランジュとは裏腹に、テッドはかつて経験したことのない妙な胸の高鳴りに戸惑っていた。互いに戸惑いを抱えつつ、ゆっくりと距離を縮めていくうぶくて純粋な二人の恋の物語。

広すぎるベッドの上で、男爵令嬢ランジュ・ベージルは、緊張と不安とすこしの期待を胸に抱えて、夫となる人の訪れを待っていた。
 ランプの明かりが、クリーム色の髪を艶やかなオレンジに染めている。藍色の瞳は星空みたいに、揺れる感情をチラチラとまたたかせていた。
(大丈夫。きっとステキな人のはずだわ)
 ランジュはライヒ伯爵家の屋敷と、その周辺の街並みを思い出して胸に手を当てた。ライヒ伯爵の館は、屋敷というよりも城と呼ぶ方がしっくりくる、巨大で見事な石造りの建物だった。門の前に広がる街は活気にあふれ、はじけるような人々の笑顔があった。
 馬車の中からながめただけだが、街はうつくしく華やかだった。
 領主であるテッド・ライヒ伯爵の統治が行き届いていなければ、そんなふうになるはずがない。広大な土地と財産を有している、王族の遠縁にあたるライヒ家はすぐれた知性を持つものを多く輩出していると聞く。ランジュの夫として紹介されたテッドもまた、非凡な才能があると聞いていた。
 それと同時に、変わり者だとのウワサもある。
 どんな人なのかも知らないまま、田舎町としか呼べない領地で、およそ貴族らしくなく、のびのびと育ったランジュは、テッドについてなにも知らなかった。ただ、侯爵家が仲立ちをして、婚約が決まったのだと聞いている。両親が勝手に決めた縁談だが、男爵家の娘が伯爵の妻になるのは名誉なことだ。それが遠縁とはいえ、王家の血筋を引いている相手なら、なおさらのこと。
(しっかりと、妻として認めていただかなければ)
 社交界デビューをする機会を逸したまま、二十歳になってしまったランジュも、貴族たちからすれば変わり者には違いない。おなじ変わり者同士、きっとうまくいくはずだと、希望を引き寄せて緊張に高まる心音をなだめた。
 ノックがされて、ランジュは飛び上がりそうになった。あわてて返事をすれば、声がかすれてしまった。恥ずかしくて頬に手を当てると、扉が開いてすらりとした影が部屋に入って来た。
 ツカツカと近づいてくる足取りは、きびきびとしている。ランプに浮かんだ男の姿を、ランジュはまじまじと見つめた。
(これが、私の夫……テッド・ライヒ伯爵)
 繊細そうな細面の青年に、じっと見下ろされる。ランジュはぎこちなく笑みを浮かべた。
「あらためて、ごあいさつをいたします。ランジュ・ベージルです」
 テッドはちいさくうなずくと、おもむろにシャツを脱いだ。目をまるくするランジュの頬に、彼の手が添えられる。ふわふわと手触りのよさそうな、クセのある茶色の髪は、後ろはすっきりとしているのに前髪は目を隠すほどに長かった。前髪の隙間から、切れ長の瞳がのぞいている。
(とても、キレイだわ)
 琥珀色の瞳はランプの灯を反射して、ハチミツのようにとろみのある風合いになっている。彼の目に感情らしきものが見当たらなくて、ランジュはとまどった。
「あの、テッド様」
「テッドでいい」

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