夢中文庫

トロ甘優しいイトコへの純情ラブモーション

  • 作家水戸けい
  • イラストゴゴちゃん
  • 販売日2018/10/10
  • 販売価格300円

十八歳の時、珠美は大好きな従兄の健吾にキスで迫るも、冗談にされてしまった。以来、健吾への想いは秘めたまま……。あるとき、職場で意に添わぬ異動を打診された珠美は「もう健吾さんと結婚して寿退社したい……」なんて思いがよぎる。が、健吾との関係は相変わらず。チャットで話しかければマメに返事をくれるし、呼び出したら時間を取って愚痴を聞いてくれる。優しくしてくれるのはきっと妹みたいに思われているから。ところが「エリアマネージャーと付き合ったら寿退社できるかなぁ」という珠美の何気ない一言に健吾が豹変。いきなり唇を封じられ、「俺にしておけよ」って――え!? それ、どういうこと?

第一章 崖っぷち、一歩手前?
 そろそろ結婚、なんてことを連想させられると、かならず浮かぶ人がいる。めちゃくちゃカッコイイわけじゃないけれど、私にとっては最高にカッコイイ人。
 だけど、あの人と私は恋人じゃない。ふたりきりで会っていたとしても、艶めいた雰囲気にはならない。
 だって彼は、物心ついたころから親しんでいる、お兄ちゃん──近所に住んでいる、従兄だから。
「だからね、菊池(きくち)さん。そろそろ、今後のことも考えておいてほしいんだ」
 エリアマネージャーの高見(たかみ)さんに、ショッピングモールの休憩室に呼び出された私は、親身な態度を演じている相手を冷めた目でながめていた。もちろん、真剣に聞いているフリをして。
「うちのブランドのコンセプトは、知っているよね」
「もちろんです」
「だったら、わかるだろう」
 わかりすぎるくらいにわかっているから、私はここのところ気が滅入っているのだ。
 私、菊池珠美(たまみ)が勤めているファッションブランド『Feel』は、ナチュラル系のキレイ目カジュアルを推している。ひと昔前ならいざ知らず、いまの時代はそこそこ高齢の御婦人であっても、若者とおなじ服装をする人は少なくないから、五十代、あるいは六十代前半のお客様も買いに来られる。
 だけど、ブランドのメインターゲットは二十代。それに合わせて、ショップ店員のほとんどは二十代。三十を過ぎると事務員あるいは出荷などの在庫管理担当として、現場から離れる。それか、郊外のアウトレットでの勤務になることが、暗黙のルールとなっていた。
 私の年齢は二十八。あと数か月で二十九歳になる。
「菊池さんなら、現場の声を汲み取って、本社の人間に伝えることも可能だろうし」
 それはエリアマネージャーの仕事で、事務員の仕事ではないと思うのですけれど。
「人当たりもいいし仕事も速いから、アウトレットモールを任せても安心できる」
 勤務歴が長いから、あれこれわかっているだけで、別に仕事が速いわけではないですよ。人当たりがいいっていうのも、接客業の基本ですし。仕事だから、そうしているだけなんです。
「いまなら、どちらでも好きな方を選んでもらえるから。会社に言われて異動をするより、自分で決めた方がいいんじゃないかな」
 それはそうですけど。だけど私、まだもうちょっと、いけると思うんですよね。最近は、三十代のお客様も増えてきましたし、二十代の店員しか置かないっていうのは、いくらブランドのメイン層がそうであっても、古いんじゃないですかねぇ。キラキラふわふわファッションってわけでも、ないですし。
「俺としては、事務方に回ってくれると、うれしいんだけどな」
 ふっと気を抜いてみせた高見さんの親しみを込めた笑顔が、粘っこく感じられてうぶ毛が逆立った。
「そういうことで、考えておいてよ」
 高見さんが席を立ったタイミングで、私も立ち上がって頭を下げる。
「わかりました。考えておきます」
 心の中ではあれこれと反論をしたけれど、実際に口に出す勇気はない。言ったら多分、見苦しいとかなんだとか陰で言われることになるからだ。
 少し背中がよれているスーツのジャケットをにらみつける。ファッションブランドのエリアマネージャーなんだから、もうちょっとパリッとスーツを着こなして来なさいよ。
 負け惜しみの文句な気がして、気分がズシリと重たくなった。みぞおちのあたりに、拳くらいの石がゴロゴロ溜まっているみたい。
「はー、気分悪い」
 気の抜けた声で言って、糸の切れた操り人形みたいに、ストンとイスに座った。時計を確認すれば、一時半を少し過ぎたところ。休憩時間は二時までだから、あと三十分もない。

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