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トリップ先の異世界で向上心旺盛な公爵様に就職しました

  • 作家水戸けい
  • イラスト霧夢ラテ
  • 販売日2019/5/21
  • 販売価格400円

就職活動をしなければと思いつつ将来を見出せない鈴奈。それがもとで周囲から浮いている気がしてならなかった。そんなある日、訪れた博物館で竜の柄頭を見つける。その瞳を覗き込んだ時、異変が! 思わず目を瞑り、再び開いたら見知らぬ麗しい男性が鈴奈を見つめていた。彼の名はアラン。スコウクロフト領の領主であり王家の血筋で位は公爵だという。竜の柄頭によって導かれた者と結ばれたら国が繁栄するとのこと。驚く鈴奈にアランは言い切る。「これからは、少しずつこの国のことを覚えていくといい。俺の妻になるからには、習慣などを知る必要があるからな」ええっ、妻!? よくわからない世界、よく知らない人に召喚されて結婚だなんて!

第一章 よくある昔話を体験することになるなんて
 博物館だからという配慮を忘れず、小声ではしゃいでいる同級生たちから、ちょっと距離を取って展示品を見学していく。
 私もあんなふうに笑っていられたらと思いながら、ちっともそんな気分になれないのは進路に悩んでいるからだ。
 私、柿本(かきもと)鈴奈(すずな)は大学二年。そろそろ就職活動の準備を始めなくちゃいけないのに、気が乗らないというかまだまだ先のことって意識があるというか、なんというか。うまく言えないんだけど、周囲の雰囲気から取り残されている感じ。彼女たちは漠然とでも、将来のことを考えている。なんとなくでも職種を決めて、先輩たちにアプローチをしていると言っていた。
 しなくちゃいけないなぁとは思いつつ、将来どうなりたいかなんて考えつかない。私が勝手に彼女たちに気後れして離れているだけで、友人たちは、のんびりしてるねとか、まだ考える時間はあるしねとか、これから変わるかもしれないしとか、決めかねている私をなぐさめてくれているのか、本気で思っているのか、わからない言葉をかけてくれる。
 授業の一環で訪れた博物館。見学の間は将来のことなんて忘れて、とも思うけれど、ここの学芸員として働くのならとか、学芸員の空きはどうとか、それより普通の事務員のほうがいいとか、ちらほらと聞こえる言葉を耳が勝手に拾ってしまう。
(あーあ)
 憂鬱だなぁと同級生たちから視線を外す。なんとなく、胸元にかかる毛先を指先でもてあそびながら周囲を見回していると、展示室の奥の通路に視線が引き寄せられた。何の飾りもない静かな廊下の先が、なぜか気になる。ふわっと誘われている気がして、足が勝手にそちらに向いた。
(関係者以外立ち入り禁止、っていう文字もないから行ってもいいよね)
 硬質な床をパンプスのかかとが叩く音が響く。廊下の先にはつるんとした、いかにも研究室の扉ですと言いたげなドアがあった。少しだけ開いている。隙間から覗いたけれど、人の姿は見えなかった。
「おじゃまします」
 興味を引かれてドアノブを握り、静かに引いてみたけれど返事はなかった。ドアの影で人が見えなかったわけではなく、本当に無人の部屋だ。
 勝手に入っちゃいけないだろうなと思いつつ、好奇心に誘われて入室する。室内にあるのは、白い天板の大きなテーブルと、その上に置かれている金色の何かだけ。
(なんだろう)
 近づいてみれば、龍が円を描いているこぶし大の装飾品だった。これ単体で使われていたものではないらしく、竜の飾りの下部は何かにかぶせられる形になっている。
(剣の柄頭かな?)
 授業で、これに似たものを教えられた気がする。なんだっけ。ええと、たしか……そうそう、単龍環頭大刀柄頭(たんりゅうかんとうたちつかがしら)だっけ。でも、これは授業で見たものよりも、ずっと龍の姿がリアルというか、西洋風な雰囲気がある。いつの時代のものなんだろう。金でできているんだろうけれど、ちっとも色あせていなくてとてもキレイ。龍の目にはめ込まれている青色の宝石は……って、顔を近づけたら、宝石がゆらめいた気がした。
「えっ?」
 光の反射で動いた気がしたんだろうかと首をかしげれば、垂れた毛先が龍の目に吸い込まれた。

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