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つれない旦那様との新婚生活は思い通りにはいきません(焦)

  • 作家宮永レン
  • イラスト蘭蒼史
  • 販売日2019/10/25
  • 販売価格500円

土いじりが趣味のアリーシャは、その行動や趣味が原因で国内ではお転婆姫と有名。そんなアリーシャに突然隣国王太子ヒースとの政略結婚が決まった。淑女として再教育を施され、否応なしに輿入れしたアリーシャを待っていたのは、ヒースの冷たくつれない態度だった。晴れやかな結婚式を挙げ、いざ初夜という段階になってもヒースはアリーシャをスパイではないかと疑ってかかり、相手にしてくれない。微笑も淑女の嗜みも、すべてはヒースに気に入られるためのものなのに、彼の態度はいつまで経ってもつれないまま。もう限界! プチッときたアリーシャはヒースに向け、お淑やかを辞める宣言をする。するとヒースの態度が一転して――

第一章 政略結婚は突然に
「もう少しで収穫できそう!」
 弾む声とともに、黄金色に色づいた小麦の穂を優しく撫でた手が、地面の方へ伸びる。ためらいなく土をつかんだ細い指先は白く乾いた土にまみれるが、熱心に見つめるそのスカイブルーの瞳は気にする風ではなく、いたって満足そうだ。
 丈の長いワンピースが地面について裾が汚れるが、こちらも気にかける様子もない。エプロンとアームカバーのようなものも身に着けていて、これらは外で仕事をする雑用係の普段着だ。
 髪が解れないように白い布を頭巾のように被っていて、そこから垣間見える紅の髪は、毎日丹念に手入れされているものだと一目でわかるくらい美しい艶を放っていた。
「アリーシャ様が、丹精込めてお世話された甲斐がありましたね」
 一緒に柔らかく笑みを浮かべたのは、そばにいた年配の女性で、アリーシャと同じような格好をしている。また、他にも同様の格好をした女性たちが数人、小麦畑で雑草を抜いたり、病気になった葉がないか観察したりしていた。
「私は何もしてないわ。だけど、これで水やりが少なくても、日差しがあまりない涼しい日が多い夏でも、ここまで立派に育つ品種だってことが証明された」
 手を軽く叩いて土を払い落としたアリーシャは立ち上がって、改めて目の前に広がる小麦畑を見渡した。
 秋の風が、アリーシャの緋色の前髪を撫でていった。西から射す斜陽が、さらにその髪色の美しさを引き立てる。
 大陸の北に位置するパメラの冬の訪れは早い。山脈から吹き下りてくる乾いた風に急き立てられるように農作物を収穫し、長い冬に備える必要がある。そのため、天候不順な年はとても大変だ。各地の領主から、税を軽くしてほしいとの訴えがここ数年相次いでいる。
「この小麦をもっと増やして、各地に行き渡るようにすれば、少しはみんなも暮らしが楽になるでしょう」
「アリーシャ様のように心優しい姫がいてくださってよかった」
 別の女性が言うと、それを聞いていた数人が大きく頷いた。
「私は、この国の役に立ちたいだけ。お兄様は将来この国を治めるっていう立派なお仕事が待っているし、お姉様たちも有力な貴族や王家に嫁がれた。残された私にできることなんて──」
「アリーシャ!」
 得意顔で続けようとして開いた口が、突然の掛け声にきゅっと真一文字に閉じた。
 呼びかけがあった方を振り向けば、城の方から大股で歩いてくるふくよかな体型の壮年男性と目が合う。アリーシャと同じ真っ赤な髪は風になびいて、まるで怒っているかのように逆立って見えた。大きな白い飾り襟に深緑色の上質な上着、肩にかけた黒のマントは、農地に出てくるにはいささか不釣り合いだ。
「まあ。お父様が畑まで来てくださるなんて珍しい。でもちょうどよかった。異国から届いた小麦の状態を見てちょうだい」
「そんなものは、農民たちに任せておけばよい。まったく、王女ともあろう者が、端女と同じ服を着て畑に立つとは……」

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