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王太子殿下の美貌に騙されてはいけません、実は激しく××なんです!

  • 作家宮永レン
  • イラスト桜之こまこ
  • 販売日2020/10/02
  • 販売価格900円

【通常版】900円 /【イラスト特典付き】1000円

男爵家で働いていたアンリエッタはある日、養生のためにこの地を訪れたという少女ステラと出会う。すっかり打ち解けたアンリエッタは彼女が王都へ帰る前日、ステラと彼女の兄エヴラールから一緒に来てほしいと懇願される。戸惑いながら了承するアンリエッタだったが、なんとこの兄妹は王太子と妹姫だった! 無事王宮に到着するも二人の継母メレーヌ王妃からひどい仕打ちを受ける。傷ついたアンリエッタをエヴラールは優しく励ます。自室に招いて手ずからクッキーを食べさせてくれたり、励ましのキスをしてくれたり――ところが、エヴラールの好意はどんどんエスカレートして……ついには抱きしめてきてあんなことやこんなことを!?

プロローグ
 切り立った断崖にそびえる白亜の王宮からは、アストラ国の王都ソランジュの街並みが一望できた。中心に建つ大聖堂を起点に放射線状に家々が広がる様子は、満開を迎えた大輪の花のようだった。
 綿にも似た柔らかそうな白い雲が浮かぶ青空の下、頬をくすぐる麗らかな風は春の訪れを告げていた。それに反して、馬車に乗り込んでうつむいた十六歳の少女は、まだ真冬の中にいるような寂しそうな表情とやせ細った手足のせいで実年齢より幼く見えた。
「ステラ。時間を見つけて会いにいく。こちらのことは何も心配しなくていいから、ゆっくり体を休めるんだ」
 馬車の窓の外からかけられた優しく穏やかな声にステラは顔を上げて、かろうじてそちらの方を向き、小さく頷いた。
 窓の外にいた青年が、それを見てホッとしたように微笑む。陽光をいっぱいに浴びたプラチナブロンドの髪が、穏やかな風にサラサラとなびいて、神秘的な青灰色の瞳をわずかな間だけ隠した。
 長い指先で前髪をすくって耳にかけた彼に向かって、ステラは口を動かす。
(お兄様。ごめんなさい)
 鼓膜を震わせることができなくても、唇の動きでそう語っているのが伝わったらしく、彼はゆるゆると首を横に振った。
「気にしなくていい」
「エヴラール殿下、そろそろお時間です」
 背中にかけられた声に青年──エヴラールが軽く肩をすくめ、ステラにもう一度微笑んで馬車から離れる。
「向こうに着いたら手紙を書いてくれ。どんなことでもいいから」
 今度は大きく頷いたステラの瞳から、ぽろりと涙の粒がこぼれ落ちた。兄を心配させてはいけないと思ったのか、ぐっと唇を噛んで袖で顔を覆う仕草に、エヴラールの心が痛む。
「ステラ様をよろしくお願いいたします」
 さきほどエヴラールに声をかけた男が御者に手を挙げて合図を送ると、鋭い鞭の音とともに馬車が動き出した。
 軽やかな蹄の音と軋む車輪の音が少しずつ遠ざかり、丘を下ってその姿が見えなくなるまで、エヴラールともう一人の男はその場に立ち尽くしていた。
「俺もついていくべきだっただろうか」
 ふもとに見える栄えた街並みと彼方に広がる鮮やかな草原を背景に、憂いの表情を浮かべて立ち尽くすエヴラールの姿は、まるで一枚の絵画のようだ。
 幼い頃は女の子のように可憐な顔立ちをしていたエヴラールだが、年頃には男性らしく凛々しい表情へと変わっていった。
 それでも愛らしい雰囲気も同時にまとったままだったので、醸し出す中性的な色気が無自覚に老若男女問わず周囲の人々を虜にした。誰が言い出したのか、その姿を目にした人々の間で『麗しの光の君』と呼ばれている。
 彼の父──アストラ国王であるジスラン・ヌダム・フォレステも人当たりのいい柔和な人物ではあるのだが、亡き王妃の美貌を生き写しにしたかのように、均整の取れたエヴラールの面立ちは絶世に値した。

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