
イラスト逆月酒乱
パンツの色、昨夜の彼とのエッチ、レイプ予告に至っては服務違反を承知で電話を切った。そんな彼女に上司が課したのはオナニーしながらの敬語応対、男たちに貫かれながらの冷静な説明応対の特別研修だった!
『ハァ、ハァ……』
ヘッドセットの向こうから聞こえてきた、荒い息遣い。私は悪い予感に眉を顰める。
「……お電話ありがとうございます、コールセンター担当の糸永です」
『ハァハァ……あのぉ、パ、パンツ……何色のパンツ履いてるの?』
粘りつくようなねっとりした声に、一瞬でざぁっと鳥肌が立った。
――まただ。
某通信会社のコールセンターに勤めている私は、毎日、同じ男からのイタズラ電話に悩まされていた。
「申し訳ございません、そのようなご質問にはお応えできません」
マニュアルに書かれた言葉を復唱する。しかしイタズラ電話の主は諦めず、続けて卑猥な言葉を投げかけてきた。
『じゃ、じゃあオマ○コ舐めさせて……』
「申し訳ございません」
『昨日は彼氏とエッチしたのかなぁ?』
「…………」
私はいら立ちに唇を噛んだ。お客様からの電話は、例えどんな内容でもこちらから通話を切ってはいけないことになっている。この変質者!と罵りたい気持ちを抑えて、私は「申し訳ございません、お応えできません」を繰り返した。
もともとコールセンターというのはイタズラ電話が多いものだが、どうも、私はタチの悪い男に名前を覚えられてしまったようだった。毎日、私が出るまで会社に電話を掛けてはガチャ切りを繰り返しているようなのだ。
『ああ、糸永さんに俺のちんぽしゃぶって欲しいなあ。そこ、○○営業所だよねぇ』
「……はい、そうですが」
『待ち伏せしてレイプしちゃおうかなぁ、えへへ……』
鼓膜にまとわりつくようなおぞましいセリフに、ぞぞぞっと全身のうぶ毛が総毛立った。
「いい加減にしてください!」
私は思わず声を荒げて、通話ボタンを切る。
(――あ、しまった……!)
はっと顔を上げると、上司の境田さんが鬼のような形相でこちらを睨み付けていた。
「糸永。ちょっと来い」
「はい…………」
イラスト駒城ミチヲ
「曖昧にしておく意義なんてわからない」──物事をうやむやにするのが苦手、きっちりした性格の朝美。ある日、同棲していた彼氏の浮気が発覚。朝美はポリシーに従ってすぐに同棲解消。しかし家を出たはいいけれど、泊まるあてがなかった。そんな時、上司の彰人が近場でいい部屋があると提案してくれるのだが、実はそれは彰人のマンションの一室。最初は拒んだ朝美だったが、新しい部屋を見つけるまでと一緒に住まわせてもらうことに。職場ではきちんと仕事をこなす彰人のプライベートでみせる曖昧さと、自分への好意に戸惑う朝美だったが、彰人のペースに巻き込まれて少しずつ変わっていく自分に気づき…。曖昧に溶かされるラブストーリー。