
イラスト逆月酒乱
クチュッ―濡れた音が、小さく耳に届く。親友の彼氏の指が、暗がりの中でミズキのホットパンツの裾から中へ、本当の足の付け根へ侵入してくる―ああ……私、濡れてる……待ち合わせに現れないマイ。仕方なく親友の彼氏の圭人くんと先に映画を観ることにしたのだが、スクリーンではレイプシーンが。気がつくと指が、そして見知らぬ男までが隣に…。
「はぁっ……」
熱いため息が漏れた。
真っ暗な館内。私の太ももの内側の柔らかい場所を撫で回す、骨ばった手のひら。スクリーンではベッドに横たわった女優が見事なヌードを披露している。
「ふ、うぅん……っ」
口を塞ぐ大きな手。
イヤイヤと首を振る私の耳元で、男がくくっと笑った。
「騒いだら周りにバレちゃうぞ。お前が、映画館で痴漢されて感じる変態な女の子だって」
(そ、そんな……感じてなんか、変態なんかじゃない……!)
私の抗議の視線に気付いたのか。
男の指が強引に、ホットパンツの裾から足の付け根へぐぐっと侵入して――。
――クチュッ。
恥ずかしい水音が、微かに私の耳元へ届いた。
「くくっ。こんなに濡らして、感じてないわけないよなぁ?」
「ええ、マイ、今起きたって?」
マイからメールを受け取った圭人くんが申し訳なさそうに告げた言葉に、私はうんざりため息を吐いた。約束の時間は既に十五分以上過ぎている。
「……そうみたいだな。ごめん」
携帯を閉じながら再び謝る圭人くんに、私は慌てて手を振った。
「ううん、圭人くんのせいじゃないよ。いつものことだし……どうしよっか?」
マイと私は幼馴染の親友同士。そして、圭人くんはマイの恋人だ。今日は彼女がどうしてもこの映画を観たいというから、わざわざ単館上映の小さな映画館まで来たというのに。
(もう! いっつもこうなんだから)
上映開始まであと十分もない。彼女が来るまであと一時間は掛かるだろう。マイは美人だが、ちょっとワガママでだらしないのだ。
「そうだな、もう前売りチケット買っちゃったし……ムダにするのも勿体ないから、入っちゃおうか」
時計を眺めながら圭人くんが言った。
「うーん……そうだね」
はっきり言って、私は彼のことがあまり得意ではない。確かにイケメンなんだけど、何か怖いというか……ちょっと冷たい感じで、何を考えているか分からないのだ。たまに凄く鋭い目つきでこっちをじっと見詰めていたりするし……マイは、そのクールなところが魅力だとベタ惚れなんだけど。
私的には、お茶なんかするよりは映画を見ていたほうがまだ間が持つというものだった。
「じゃあ、俺マイに電話しておくよ」
圭人くんはそう言いながら携帯を持ってどこかへ行ってしまい、戻ってきたのは上映の寸前だった。
こうして、私は親友の恋人とふたりで映画館へ入ることになったのだった。
イラストロジ
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